うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

幻の声~髪結い伊三次捕物余話~

2012年03月11日 | 宇江佐真理
 1997年4月発行

 宇江佐真理さんのデビュー作。現在までに十巻を数えるロングセラーにもなった記念すべき第一作でもあり、登場人物の絶妙な描写が素晴らしい。
 廻り髪結いの伊三次、その情人の深川芸者・お文(文吉)、伊三次が小者を務める北町奉行定廻り同心・不破友之進を軸に、取り巻く人々との人情や、環境と先行きなど、江戸で生きる者たちの日常を、人間をいきいきと描いている。
 また、捕物が主軸ではなく、事件に至までのまたは至った人の思いがメインであり、時代小説に疎い人にもすんなりと入り込める作品である。この三人それぞれの立場に立って読み直しても楽しめる。

幻の声
 日本橋の呉服屋の娘が拐かしにあい、大金が賊の手に渡った。下手人は彦太郎と分かりすぐ捕まったが、己が真の下手人であると名乗り出てきた駒吉という女に疑念を抱く伊三次と不破友之進。駒吉が命を張ってまで彦太郎を庇う訳とは。
 伊三次が駒吉の刑罰前日に、髪を結うシーンでの心配りが、女性作家ならではの視点で優しさに溢れた情景を醸し出す。

暁の雲
 魚花の亭主が、酒に酔い川溺れ死んだ。魚花の内儀はお文の姐さん分の元芸者である。堅気の女房に収まったおすみ(内儀)は、お文の目標でもあった。その亭主の死の真相が分かるに連れ、お文の心はざわめく。
 女の幸せとは、堅気になる事が幸せなのか。芸者だった華やかな過去を忘れられるのか。お文に問い掛ける。


赤い闇
 不破友之進の隣人・村雨弥十郎は北町奉行所の役人で例繰方の同心であるが、友之進とは性質も異なり、親しく言葉を交わした事もない。だがある日、弥十郎は妻女・ゆきの不信を訴える。ゆきを監視するうちに、友之進は己の妻・いなみの行動に疑念を抱く。
 真実とは…。ラストの弥十郎と友之進の別れのシーンは、読み応え十分。


備後表
 幼い頃に両親を失い、姉の嫁ぎ先で、辛い幼年期を送った伊三次は、幼馴染の喜八の母親・おせいを母親のように慕っていた。そのおせいの最期の望みを叶えようと奮闘する。
 たわいもない親孝行の話になりがちなところを、実に人の内面に入り込んだ作品に仕上げ、せつなさを醸し出す。


星の降る夜
 大晦日。お文と所帯を構える為に溜めた金子を何者かに盗まれた伊三次。その下手人は、伊三次が弟のように可愛がっていた弥八という男だった。弥八への憎悪を募らせる伊三次に、友之進の妻・いなみは、己の過去を語る。
 伊三次の苦々しい思いや、人として選ぶべき道を、主人公と一体化となり臨場感たっぷりに堪能させてくれ、また、自分であったらどっちを選ぶかを問い掛けられる。

主要登場人物
 伊三次...廻り髪結い、不破友之進の小者
 
お文(文吉)...深川芸者
 
おみつ...お文の女中

 不破友之進...北町奉行所定廻り同心
 
いなみ...友之進の妻

 留蔵...岡っ引き
 弥八
...留蔵の手下
 伊勢屋忠兵衛...材木仲買商


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