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うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

高瀬川女船歌

2012年11月19日 | 澤田ふじ子
 1997年11月発行

 荷船や客船で賑わう、高瀬川沿いに集う人々の哀歓を描いたシリーズ第一弾。

中秋の月
冬の螢
鴉桜(からすざくら)
いまのなさけ
うなぎ放生(ほうじょう)
かどわかし
長夜(ちょうや)の末日(まつじつ) 計7編の連作長編

 実父の消息は知れず、実母と死に別れたお鶴は、柏屋の養女となり不自由のない生活を送り、心優しい娘に育った。
 ある日、高瀬川で鯉を捕まえた少年・平太が、会所の船衆に酷く勇められているのを目にし間に入るが、その少年の酷くあわれな様子に胸を痛めるのだった。
 お鶴を取り巻く柏屋、角倉会所の人々。そして近隣で起きた諍いや事件を通し、市井の人々の悲喜こもごもな日常が流れる。
 
 第一印象は、(澤田ふじ子さん)らしくないといった思いである。一連の澤田氏作品同様、各章が読者の想像力をかき立てる終わり方で括ってはあるのだが、持って行き方が安易と言うか、稚拙と言うか…。もちろん、ストーリー的におかしな部分がある訳ではなく、こういった物語を書く作家さんも居られるのだが、澤田氏にしてはといった感想である。
 特に、最後の2編に関しては、結末までを急ぎ過ぎ、安易に筆を置いた感が否めず、「あれっ。これで終か」と、何度か頭を捻ったものだ。内容も、よくある話であった。例えば、「かどわかし」に於いては、殺し屋の意味が掴めず、また必要性があったにしても、その後の依頼人の動きなどには触れていない。
 「長夜の末日」では、序盤から引き摺ってきた、宗因、お鶴父娘の過去が、都合の良過ぎる呆気ない結末。
 同時に、高瀬川の説明文が多すぎて、物語に入り込むにも難義したのも事実。これ一重にほかの作家さんも同様なのだが、作家の思い入れの強い作品、ライフワークとして書いておられる作品は、当方の嗜好には合わないのだろう。
 もちろん、作品として否ではなく、こういった話としては可なのだが、澤田氏ならではの奥行きの深さが感じられなかった。本文中でも触れておられるが、人は善と悪がごちゃ混ぜになっている。根っからの悪人はいないとのメッセージ小説なのだろう。
 
主要登場人物
 お鶴...柏屋養女
 平太...四条鍋屋町 ・遊女屋菱屋の追い使い
 宗因(奈倉宗十郎)...四条小橋・庚申堂の半僧半俗、元尾張藩京詰勘定役、お鶴の実父
 柏屋惣左衛門...二条高瀬川上樵木町 ・旅籠の主 
 伊勢...惣左衛門の内儀
 惣十郎...惣左衛門の嫡男
 佐兵衛...柏屋の番頭
 お里...柏屋の女中
 市助...柏屋の下男
 志津...お鶴の実母、元角倉会所の女船頭
 お時...二条高瀬川上樵木町・角倉会所の女船頭
 児玉吉右衛門...角倉会所の頭取
 弥助...角倉会所の船衆


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花籠の櫛~京都市井図絵~

2012年11月16日 | 澤田ふじ子
 2004年6月発行

 京の町で平穏に暮らす庶民に降り掛かる宿命と、数奇な縁で繋がった人々を綴った人情時代小説。

第一話 辛(つら)い関
第二話 花籠(はなかご)の櫛(くし)
第三話 扇の蓮(はす)
第四話 夜寒の釜
第五話 雪の鴉(からす)
第六話 色鏡因果茶屋(いろかがみいんがのちゃや)
第七話 雨月(うげつ) 連作長編

 奉公先での無体な嫌がらせやいじめから逃れ、大津から京の実家へ戻ろうとしたお八重。だが、折り悪く京の都で起きた夜盗の残党狩りの為、そこには関所が設けられ、厳重警戒だった。
 手形のないお八重は止む追えず関所破りを試みるも、捕らえられてしまう。
 更に、配下の中村彦四郎の不始末に苛立つ沖宗弥兵衛は、見せしめの為にお八重を磔刑に処すのだった。
 だが、処刑後に弥兵衛の嫡男の命の恩人と知ると、弥兵衛はその日の内に剃髪、出家する。
 そして、お八重の家族、沖宗弥兵衛、盗賊鳴神の庄久郎一味、中村彦四郎に絡み、悲喜こもごもの人間模様が繰り広げられていく。
 
 第一章から脳天を強打された衝撃である。お八重が理不尽にいびられるシーンも切ないが、四方やの磔刑である。強いインパクトに本を掴む手が震えたほどであった。やり切れなさを感じて止まず。
 そして沖宗弥兵衛が非を認め出家という形で第一章が終了し、お伊奈、続いてお志乃の物語が始まるので短編集かと思いきや、これが未だ序章なのである。
 一通りの顔触れが出揃ったところで、数奇な運命の糸が絡み合い、そもそもお八重の刑罰の要因でもある夜盗へまで繋がっていく。
 文中、途中で登場人物の言葉が話が前後したり、話の進行が変わったりするのだが、作者の文章力の巧みさから、それらに読み辛さはなく、すんなりと頭に入ってくる。やはり、書ける方ならどのような比喩や技法も可能だといった見本のように思える。
 印象に残ったのは140頁(文庫)の「物憂く扇を開き、蓮の花に見入っていたお志乃は、ぱちんと音をさせ、扇を強く閉じた。自分がその花びらの一枚を、手で叩き落としたように感じた。」と、ラストの町村与一郎が、「雨月」と言った言葉を「梅雨」に帰る所である。
「口からつい出てしまった雨月という言葉に、いささか不吉なものを覚えた。」(348頁)とあるのだが、これで一連の物語の終演である。
 この雨月の意味するところの理解が些か困難であり、言い換えたのでセーフなのか、やはり不吉の前兆なのか…。続編である「やがての螢」は未読だが、話の内容は全く違うようなので、言い換えた事により、厄払いとなった。皆平穏に生きていって欲しいと願わずにはいられない。
 頁を閉じて思ったのは、ぼたんの掛け違い。ほんの些細な事柄が大きく人の運命を狂わせるといった事柄である。物語りながらも、お八重の運命にはやはり憤りを抱いて止まないほどに強い衝撃であった。
 それを敢えて序章とし、生きる事を問い掛ける作品である。
 余談ではあるが、大いなるインパクトに、次に読み始めた作品が中々頭に入ってこない程である。
 
主要登場人物
 お八重...上京笹屋町・佐兵衛の娘、大津中保町材木屋・朽木屋の女中
 佐兵衛...お八重の父親、三条釜座・釜師八代大西浄本の下職→鋳掛屋
 お寿...お八重の母親 
 佐吉...お八重の弟
 沖宗弥兵衛(→寂順)...大津代官所惣元締→京・慈照院僧侶、松屋町文殊堂在
 沖宗芳之助...弥兵衛の嫡男→大津・義仲寺芭蕉庵在
 沖宗松子...弥兵衛の妻→大津・義仲寺芭蕉庵在 
 お伊奈...轆轤町・藤吉の娘、そば丹の奉公人
 藤吉...お伊奈の父親、陶工、錦小路川魚問屋・魚富の入婿
 民吉...藤吉の弟、盗賊鳴神の庄久郎一味→藤吉の手伝い
 お美和...お伊奈の母親、錦小路川魚問屋・魚富の内儀
 清蔵...お伊奈の弟、魚富の主
 仁助...三条麩屋町そば屋・そば丹の主
 鍵屋太兵衛...大黒町小間物問屋の主
 お登瀬...太兵衛の女房
 鍵屋又一郎...太兵衛の嫡男、鍵屋の跡取り
 横井安民...絵師・円山応華門下、元江州彦根藩士・横井惣左衛門の二男
 横井重之助...惣左衛門の嫡男
 紀伊国屋弥左衛門...骨董町紙問屋の主
 お志乃...祇園料理茶屋・吉野屋の女中
 徳蔵...吉野屋の板前
 中村彦四郎...大津代官所地方目付→錦小路川魚屋・魚彦の入り婿
 湊屋三左衛門...大津上平蔵町川魚問屋の主
 お富...彦四郎の女房、三左衛門の娘
 町村与一郎...京都東町奉行所・吟味役組頭 




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雨女~公事宿事件書留帳十三~

2012年11月15日 | 澤田ふじ子
 2006年8月発行

 京都東町奉行所同心組頭の長男として生まれながら、訳あって公事宿(訴訟人専用旅籠)鯉屋に居候する田村菊太郎が、人の心の闇に迫り難題を解決するシリーズ第13弾。

牢屋敷炎上
京雪夜揃酬
幼いほとけ
冥府への道
蟒の夜
雨女 計6編の短編集

牢屋敷炎上
 姉小路神泉苑の近くで発生した火の手が、強風に煽られ周囲は延焼。六角牢屋敷では、囚人が解き放ちになった。囚人の伝蔵は、飛び散る火の手を防ぐ手伝いを試みたり、困惑の子どもを助けるも…。

京雪夜揃酬
 針屋町の古手問屋笹屋の前には、今日も野菜の入った籠が置かれていた。そして真新しい褞袍が置かれていたに至って、主・安次郎の女であると勘ぐった女房が離縁を言い出し、真相を突き止めるため菊太郎が見張りをする事になった。

幼いほとけ
 三条木屋町の料理屋重阿弥からの帰りに、3人のならず者に襲われた菊太郎と源十郎は、そのひとりを捕らえ鯉屋へ戻るが、その後から7歳くらいの男の子の姿様子を伺っていた。その子の素性を探ろうと菊太郎は…。

冥府への道
 室町三条の呉服問屋富屋に盗賊・村雲の松五郎一味が押し入り、家人を殺傷し5千八百両余りもの金を奪ったとあり、東西両奉行所では総動員で探索に当たる。すると、長坂口の見張りをしていた銕蔵の前に、老婆の遺骸を樽に入れた男が…。

蟒の夜
 夷川通りに面した元筆屋だった空き屋敷の井戸の中から、村雲一味が隠したと思われる5千両を見付けた東町奉行所では、菊太郎と福田林太郎を配し、筆屋の向かいの昆布屋・根津屋で張り込みを開始する。
 (「冥府への道」との連作)
雨女
 泥鰌売りの岩三郎は、長屋の木戸門で、びしょ濡れの女が倒れ込むのを見掛け、己の塒(ねぐら)に連れて戻る。だが、女が終始手放さない小袋を開けてみると、そこには、行方知れずの父親の煙草道具と手形があった。

 全ての話が、読者の想像を掻き立てる幕引き出るのが、このシリーズの特徴。しかも、明かり展望である事が条件となっている。故に、読んでいてすがすがしいのだ。
 エピソード自体は悲しかったり、胸が詰まったりするが、どんな状況からでも救いはあると作者が語っているように思える。それを如実に感じたのは「牢屋敷炎上」。多分そうなるであろうと読み進め、その通りの結果が出るのだが、それでも菊太郎、源十郎が絡む事により、暗転が晴れる兆しを示している。
 未だシリーズは4作しか読んでいないが、この回は、鯉屋は軒を貸す程度の脇に回り、市井での出来事に菊太郎が絡むといった話が描かれている。
 「蟒の夜」では、主題の村雲一味のほかに、根津屋の娘・お市の縁組みも副題として描かれているが、こちらの結末は、菊太郎の推理と助言でお仕舞いの形。この話も発展させて欲しかった。
 敢えて苦言とするなら、「蟒の夜」の終演が出来過ぎであるくらいだろうか。
 作者のメッセージ性がはっきりとした、好きなシリーズである。

主要登場人物(レギュラー)
 田村菊太郎...公事宿鯉屋の居候、田村次右衛門の庶子
 田村銕蔵...京都東町奉行所・吟味役同心組頭、菊太郎の異母弟、田村次右衛門の嫡子
 鯉屋源十郎...大宮通り姉小路・公事宿鯉屋の主
 吉左衛門...鯉屋の下代(番頭)
 佐之助...鯉屋の手代見習い
 鶴太...鯉屋の丁稚
 正太...鯉屋の丁稚
 お信...祇園新町・団子屋美濃屋の女将
 右衛門七...美濃屋の奉公人兼用心棒
 福田林太郎...京都東町奉行所・吟味役同心
 小島左馬之介...京都東町奉行所・吟味役同心
 岡田仁兵衛...京都東町奉行所・吟味役同心
 


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木戸の椿~公事宿事件書留帳二~

2012年09月19日 | 澤田ふじ子
 1992年10月発行

 京都東町奉行所同心組頭の長男として生まれながら、訳あって公事宿(訴訟人専用旅籠)鯉屋に居候する田村菊太郎が、人の心の闇に迫り難題を解決するシリーズ第2弾。

木戸の椿
垢離の女
金仏心中
お婆とまご
甘い罠
遠見の砦
黒い花 計7編の短編集

木戸の椿
 長屋で針仕事をして生活を立てる、お袖の娘千代が行く方知れずになった。勾引しとは思えず、長屋を訪ねた菊太郎は、古びた布地に目を惹かれる。

垢離の女
 三条大橋の下で、生後間もない赤子を抱いてうずくまっていたおけいを、お信は長屋に連れ帰り、その身の上に同情を寄せる。一方菊太郎は、おけいと赤子に関わる店同しの問題に行き当たる。

金仏心中
 店の古美術品を持ち出して、北野の女郎屋に入れ上げていた手代茂助の不行跡が露見した。真砂屋の主は、金仏を取り戻したいと、鯉屋に相談を持ち掛けた。

お婆とまご
 若者弥市がならず者に難癖を付けられているのを、菊太郎が救ってやったことから、その祖母お勢が鯉屋を訪ねて来たのだが、その帰りにお勢が、ならず者に襲われ大怪我を負ってしまう。菊太郎は土井式部と共に、絡繰りを探るのだった。

甘い罠
 大文字屋の娘お妙から、湯治に出掛けた祖父が1年近くも戻らないと相談を受けた菊太郎。お妙の親は、金の無心に閉口するも、敢えて心配はしていない様子だが、お妙の話から、祖父の行方を知る口入れ屋を探ると…。

遠見の砦
 女を巡る諍いで、勘十郎の目を潰した罪で鯉屋の座敷牢に入っている大工の富吉だが、本人は犯行を否認している。しかも、目の治療中の勘十郎が姿を消した。菊太郎の不信は募る。

黒い花
 重阿弥の燗番の光太夫が行方不明になり、お信がその詮索を鯉屋に持ち掛けた。ようと行方が知れない光太夫を探すため似面絵を描くと、東町奉行所同心の福田林太郎が、共に深酒をした相手だと言う。

 これで澤田さんの作品4冊を読んだのだが、最終的結末を描かず、こうなるだろうという大映方式が特徴なようだ。
 また、これは当方の読み方が浅いのかも知れないが、どうにも話が前後し、「あれっ、旅に出たんじゃないか」。「そうか、出る前に話が戻ったのか」。などと何度か読み返す場面もあった。
 鯉屋愛猫のお百と菊太郎のシーンは毎回、微笑ましく和やかな気持ちになれる。
 ただ、澤田さんの文化や歴史的背景などの江戸に置ける諸事情の知識は、大変興味深い。学ぶといった面で読む小説として受け止めている。
 「金仏心中」、「甘い罠」は物語には名前しか出て来ない人物の悲しい結末が印象的である。「遠見の砦」は当方には難解であった。もう一度読み返したいと思う。

主要登場人物(レギュラー)
 田村菊太郎...公事宿鯉屋の居候、田村次右衛門の庶子
 田村銕蔵...京都東町奉行所・吟味役同心組頭、菊太郎の異母弟、田村次右衛門の嫡子
 田村次右衛門...元京都東町奉行所・吟味役同心組頭、隠居
 政江...次右衛門の妻、菊太郎の継母
 奈々...銕蔵の妻
 鯉屋源十郎...大宮通り姉小路・公事宿鯉屋の主
 多佳...源十郎の妻
 宗琳(武市)...源十郎の父親、隠居
 福田林太郎...京都東町奉行所・吟味役同心
 吉左衛門...鯉屋の下代(番頭)
 喜六...鯉屋の手代
 お信...三条鴨川沿い料亭茶屋重阿弥の仲居
 土井式部...山城淀藩浪人→大宮通り姉小路・公事宿蔦屋の勘定方


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女衒の供養~公事宿事件書留帳十五~

2012年09月18日 | 澤田ふじ子
 2007年9月発行

 京都東町奉行所同心組頭の長男として生まれながら、訳あって公事宿(訴訟人専用旅籠)鯉屋に居候する田村菊太郎が、人の心の闇に迫り難題を解決するシリーズ第15弾。

奇妙な婆さま
牢囲いの女
朝の辛夷
女衒の供養
あとの憂い
扇屋の女 計6編の短編集

奇妙な婆さま
 隠岐島の流人だった過去を、話す老婆が話題の居酒屋を訪れた菊太郎。あまりにも明け透けな話し振りに、何か曰くがあるのではないかと…。

牢囲いの女
 鯉屋の手代の喜六は、言い寄る男を見事に裁いた婀娜っぽい女の気っ風に驚かされた。数日後、六角牢屋敷に牢扶持の出前に向かった折り、その女が留置されているのを見掛け…。

朝の辛夷
 大店の筆屋松屋の総領息子である芳助が勾引され、金子十両を無心する文が投げ込まれた。偶然店表に居合わせた菊太郎は、その脅迫文の稚拙さと、大店相手に十両の無心に、不信を抱く。

女衒の供養
 25年前に突然姿を消した亭主の又七が、気鬱の病いに陥っているので、引き取って欲しいとおみさと名乗る若い女に言われたお定。とてもではないが、そんな話は受けられない。大方、おみさが手に余り押し付けてきたのだろう。だが、後日おみさは許嫁の友兵衛を伴い、又七を引き取ると申し立てが合った。

あとの憂い
 異母弟の鐵蔵が言うには、流刑が決まった入牢が、その日にちが決まると、新たな罪状を話し出すのだと。それは、流刑逃れの為には思えず、その思惑が計り知れないのだった。

扇屋の女
 扇屋吉文字屋の主と女房の修羅場に出会せた菊太郎。どうやら間男を作り離縁を訴える女房お菊と、打擲、成敗を望む夫市十郎との進退窮まった場面だった。菊太郎は、お菊を鯉屋に連れ帰る。

 第1作と、この15作目しか読んではいないが、役6年の開くがあるだけあって、余分な言い回しが失せ読み易くなった。僭越ではあるが、洗練された感じがする。
 思うに、この「公事宿事件書留帳」シリーズは、派手なやっとうや、捕物ではなく、「古畑任三郎」的、心理戦とでも言おうか…。
 大分間を開けたので何とも言えないが、やはり登場人物の描写が薄さが気になる。主人公の菊太郎に関しても長身の優男とあるが、細かな表現はない。
 「扇屋の女」で、手代の喜六に、夏場に風呂か行水をしなかった翌日は、己が臭くて気が弱くなると言わせている辺りは、女性らしい視点で身近な日常を現しているにも関わらず、そう考えると、澤田さんの筆は、人の表情や顔付きなどには、あまり進まないようだ。
 収録作品の中では、読者も菊太郎と同時に、狂言であると気付き、筋書きが読めるが、「朝の辛夷」が微笑ましく良い話だった。
 それとこのシリーズ、奉行所、鯉屋にも投獄されている罪人にも、悪人がいないのが特徴的。たおやかに読む事が出来、後味の悪さが残らない。
 が、底意地の悪い見方をすれば、これだけの出来物揃いなら、わざわざ菊太郎に出馬願わなくてもと、思えなくもないのだが。

主要登場人物(レギュラー)
 田村菊太郎...公事宿鯉屋の居候、田村次右衛門の庶子
 田村銕蔵...京都東町奉行所・吟味役同心組頭、菊太郎の異母弟、田村次右衛門の嫡子
 田村次右衛門...元京都東町奉行所・吟味役同心組頭、隠居
 政江...次右衛門の妻、菊太郎の継母
 奈々...銕蔵の妻
 鯉屋源十郎...大宮通り姉小路・公事宿鯉屋の主
 多佳...源十郎の妻
 宗琳(武市)...源十郎の父親、隠居
 お蝶...宗琳の妾
 吉左衛門...鯉屋の下代(番頭)
 喜六...鯉屋の手代
 佐之助...鯉屋の手代見習い
 鶴太...鯉屋の丁稚
 正太...鯉屋の丁稚
 お信...祇園新町・団子屋美濃屋の女将
 右衛門七...美濃屋の奉公人兼用心棒



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闇の掟~公事宿事件書留帳一~

2012年09月17日 | 澤田ふじ子
 1991年7月発行

 京都東町奉行所同心組頭の長男として生まれながら、訳あって公事宿(訴訟人専用旅籠)鯉屋に居候する田村菊太郎が、人の心の闇に迫り難題を解決するシリーズ第1弾。

火札(ひふだ)
闇の掟
夜の橋
ばけの皮
年始の始末
仇討ばなし
梅雨の蛍 計7編の短編集

火札(ひふだ)
 火付けの罪で磔と沙汰が下りた長吉の罪状に、不信を抱いた菊太郎は、異母弟の同心組頭の銕蔵に、再吟味を促すのだった。
 菊太郎の生い立ち、家族との関係を描いた、言わばお披露目の物語。

闇の掟
 詐欺の嫌疑をかけられ、鯉屋の座敷牢で預かっている土井式部の凛とした姿に、菊太郎は無実を信じていた。一方、鯉屋の主である源十郎は、公事宿仲間と近江の竹生島詣でに出掛けるが、その道中、何者かに狙撃され、同行の相模屋総兵衛が、一命を落とす。
 
夜の橋
 賀茂川沿いで釣りをする少年と語らっていた菊太郎。すると、対岸に男の土左衛門が上がった。その土左衛門の素性を調べて行くうちに、やり切れない事件に遭遇する。

ばけの皮
 鯉屋に、貧しさから養子に出した娘を、手元に引き取りたいと、一度負けた公事の再吟味の依頼が寄せられた。幾ら金を詰んでも頷かない養父の様子に、菊太郎は違和感を感じる。

年始の始末
 薮入りで郷里の上嵯峨村に帰った手代の喜六が、期日を過ぎても戻って来ない。奉公人の刻限破りは御法度である。菊太郎は喜六の実家を訪ねる事に。

仇討ばなし
 六角牢屋敷の咎人から、面会を求められた菊太郎。その相手は、若かりし頃、世話になった美濃大垣藩士・森丘清兵衛の嫡男・佐一郎だった。聞けば、清兵衛の仇討ちの途中、言われなき嫌疑を掛けられたと言う。

梅雨の蛍
 宗琳の妾のお蝶が、宗琳に女が出来たと、源十郎に窮地を訴える。それを聞いた菊太郎は、早々宗琳の足取りを追うのだった。

 さすがに情景描写は巧い。奇麗な京の四季を感じさせてくれている。
 だが、全体に雑な感じがした。例えば、花を表現する描写は優れているが、菊太郎始め、登場人物の顔立ちから風体がほとんど描かれていない。
 設定も、俗にありがちな浪人なれど、身分卑しからずの若様の捕物帳。ただし、バックグラウンドが京の都である事が個性にはなっている。
 加えて、表現技巧がまどろっこしく、もっと直線的に書けば分かり易いのにと、数度読み返した行が幾つかあった。
 ただ、ストーリ的には、「夜の橋」、「仇討ばなし」など、切ない内容もあり、シリーズ1作目と言う事で、何やら説明がくどくなったのやも知れない。と、ほかの作品も続読を決めた。
 鼻の奥がつんとするような話は、残念ながら見当たらなかった。
 実は、続編を読んでいるのだが、1作目と比べると、格段分かり易く、そして面白くなっています。
 カバーの(多分菊太郎だろう)男性の帯の結び方、へんです。これでは直ぐに解けてしまう。しかも脇差しさしてないし。女性の黒八の裏が赤なのも可笑しい。 髱(たぼ)も。

主要登場人物(レギュラー)
 田村菊太郎...公事宿鯉屋の居候、田村次右衛門の庶子
 田村銕蔵...京都東町奉行所・吟味方同心組頭、菊太郎の異母弟、田村次右衛門の嫡子
 田村次右衛門...元京都東町奉行所・吟味方同心組頭、隠居
 政江...次右衛門の妻、菊太郎の継母
 奈々...銕蔵の妻
 鯉屋源十郎...大宮通り姉小路・公事宿鯉屋の主
 多佳...源十郎の妻
 宗琳(武市)...源十郎の父親、隠居
 お蝶...宗琳の妾
 吉左衛門...鯉屋の下代(番頭)
 喜六...鯉屋の手代
 佐之助...鯉屋の小僧
 お信...三条鴨川沿い料亭茶屋重阿弥の仲居
 土井式部...山城淀藩浪人→大宮通り姉小路・公事宿蔦屋の勘定方


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花暦(はなごよみ)~花にかかわる十二の短篇~

2012年09月16日 | 澤田ふじ子
 2007年1月発行

 西国の市井に生きる女たちの喜びや悲しみを、四季折々の花に仮託した、珠玉の十二篇。

寒椿
転生の梅
月の鬘(かずら)
桜狐
重畳の藤
みどりのつるぎ
蓮見船
定家狂乱
夏花比翼図
野ざらし
菊日和
雪の花 計12編の短編集

寒椿
 相次ぐ不幸の中、婚期を逸しながらも弟の出世を願い、仕立物で微禄の家を支えるふきだったが、その清廉な生き様に好意を寄せる目があった。
 真っ直ぐに生きているふきに好機が巡ってくるといった、発展的な終わり方であるが、その締め括りの2行が椿の花と、武家の心意気を讃え、美しい情感である。

主要登場人物
 小倉ふき...大垣藩戸田家普請奉行所役・小倉吉左衛門の息女
 小倉小太郎...ふきの弟
 真野彦十郎...大垣藩戸田家郡奉行・真野治部左衛門の二男
 真野りく...彦十郎の母親

転生の梅
 子のいない宗也、つやは親類の千世を養女に迎え育て上げたが、二人の目的は千世に依存する事で、世間体を気にして迎えた婿の佐助をいびり出すのだった。
 佐助を忘れ切れない千世が、所帯を持ったであろうその姿を見掛けた時の切なさの描写と、恩義と愛情に揺れて佐助を選べなかった己の生き方からの離脱に、梅がキーとして使われている。

主要登場人物
 千世...三条高倉絵屋の養女
 佐助...千世の元夫
 宗也...千世の養父
 つや...千世の養母

月の鬘(かずら)
 山を隔てた村の樵の権三と恋仲になり、毎夜山越えをして逢瀬をむさぼっていたすてだが、闇夜の山越えの怖さから、身を妖にやつして恐怖を振り払っていた。だがその姿が狐の化身と噂され…。
 最悪の結末に、黄華鬘(きけまん)の花を折り込み叙情的な光景で締め括っている。

主要登場人物
 すて...庄屋菅倉家の下女
 権三...樵

桜狐
 京男の弥之助と割りない仲になってから、夫も子も煩わしくなり、弥之助の元に走り京で気ままに暮らすお里だったが、次第に、お里の身体に因果の刻印が刻まれていくのだった。
 唯一摩訶不思議な話でであるが、因果応報を、妾宅から見える桜と稲荷の前でお里が思い知る。

主要登場人物
 お里...草津下笠村・船頭佐兵衛の女房
 弥之助...京・青花紙の仲買人
 
重畳の藤
 お八重にとっては、宗十郎に懇願され嫁いだ老舗の麩藤だったが、6つの年上で身寄りもないお八重を、姑の深江もは疎んじ言葉も交わさない中、宗十郎さえも外で遊び呆ける有様になった。
 物語の進行に、ほとんど関わりのなかった舅の藤兵衛が、最期に老舗の総領らしく的確な判断を示す感動のクライマックスは、藤の樹の下で展開する。

主要登場人物
 お八重...三条堺町・麩饅頭屋麩藤の嫁
 宗十郎...お八重の夫、麩藤の総領息子
 藤兵衛...麩藤の主
 深江...藤兵衛の女房

みどりのつるぎ
 許嫁に早世されてから、縁組みが整わない伊勢を案じる兄と嫂。当の伊勢は、子連れやもめの伊庭小平太の元へ日参していると噂に上り…。
 悪人や腹黒い人はひとりも出て来ず、誰もが正直に真っ直ぐに生きている、すかっとする話である。
 燕子花(かきつばた)の茎を、女子の剣に見立て、伊勢の心意気を示して幕を閉じる。

主要登場人物
 馬淵伊勢...新右衛門の妹
 馬淵新右衛門...大垣藩戸田家・大蔵奉行助け
 馬淵世津...新右衛門の妻
 伊庭小平太...大垣藩戸田家・検見奉行所手代
 伊庭千江...小平太の娘

蓮見船
 仕立屋として独立したおひさには、人に言えない過去があった。3人の男に騙され、死を覚悟して乗った高瀬舟の船頭の佐之助に救われたのである。
 表題の「蓮見船」は、やはり暗い過去を持つ佐之助の逸話からなる。既に老身である佐之助の男気と、彼を父と慕うおひさの明るい展望で終わっている。

主要登場人物
 おひさ...上京千本釈迦堂・仕立屋
 千代蔵...下京東本願寺門前町・八百屋
 おさだ...千代蔵の女房
 お鈴...おひさの娘
 政吉...油小路室町・川魚の仲買人
 佐之助...高瀬舟の船頭
 
定家狂乱

 娘の於滝の婚礼のため、若狭から共に京を目指した勘解由だったが、旅の途中で、山賊が身に付けていた定家緞子をどうしても手に入れ、主君に献上したい思いを押さえ切れず…。
 表題に花が記されていないばかりか、女が主役でないなど、この章だけは異質である。ただし、小見出しに「一輪の桔梗」と、花にまつわりはつけている。
 ただ、ほかと比べ、勘解由の突拍子もない行動と、ラストの顛末に「狂乱」を感じずにはいられなかった。
 一連の流れでいくなら、於滝の心情が描かれていないのが悔やまれる。

主要登場人物
 伊奈勘解由...若狭小浜藩酒井家・お納戸奉行御数奇屋掛り
 伊奈於滝...勘解由の娘
 大村重太夫...小浜藩酒井家・郡奉行
 大村左馬之助...小浜藩酒井家・藩主側近、於滝の許嫁
 
夏花比翼図
 婚礼を間近に控えた弁之助が、父親の仇を追って藩を出たのは14年前。次第に便りもなくなった弁之助と尚世を繋ぐのは朝顔だけであった。
 他家へ嫁げという弁之助からの文にも応じず、ひたすら弁之助の帰郷を待つ尚世に、一縷の望みを繋いだのもその朝顔であった。
 弁之助の存在は、尚世の回想でのみ伺い知る事が出来る。二人の絡みはほとんどない。大きな出来事もない。ただ、許嫁を待ち続ける年増女の日常だ。
 だが、朝顔を手掛かりに、弁之助の今を知る事が出来うるだろう締め括りに、強い感銘を覚えた。収録作品の中で一番好きな章である。ドラマ化を願う。ただし、書ける脚本家と、撮れる監督でだが。
 
主要登場人物
 尚世...池坊立花の師匠、近江膳所藩本多家京都留守居役・北条六左衛門の娘
 中神弁之助...膳所藩本多家舟奉行助・久太夫の嫡男、尚世の許嫁

野ざらし
 忠七の中間が済み、曽根村に戻った折には祝言を挙げる筈であったが、忠七は、奉公先の嫡男・上野新十郎の江戸下向に伴ったきり、消息を消した。そして、早苗までもが…。
 小野小町の末路とされる骸骨の目からのすすきと、松尾芭蕉に詩を搦めた話である。話自体は切なく、早苗の終末や思いはやり切れないのだが、なぜか浮世離れし、のほほんとした忠七の存在に、悲壮感が中和されている。

主要登場人物
 早苗...美濃与市新田中曽根村の豪農の娘
 忠七...美濃与市新田中曽根村の豪農の二男、大垣藩寺社奉行・上野市右衛門の中間

菊日和
 日がな景色を眺める若い男に、村人は不信を抱いていた。そんなある日、川で溺れた子を助けようと飛び込んだその男が溺れて生死を彷徨ったのだった。
 生気を取り戻した男は、死に場所を探していた蔵米公家の三男と名乗る。
 地味な話ではあるが、公家と言えども喰うや喰わずの貧乏所帯の、更には冷や飯食いの三男が、身分を顧みず、菊栽培で生業を立てる池裏村で、新たな生き場を見出すビルドゥングスロマン小説である。

主要登場人物
 おひさ...五左衛門の娘
 五左衛門...北嵯峨野池裏村総百姓
 北小路随重...蔵米公家北小路家三男

雪の花
 与五郎と将来を誓い合っていたおさとだったが、奉公先の若旦那である吉之助に手込めにされ、そのまま所帯を持った。だが、それは不幸な結婚生活であった。
 おさとが、小さな幸せを得たのは、吉之助が他界し、ひとり息子の清吉と嫁のおけいが出来た子であったからである。
 心に余裕が出来れば思い出すのは与五郎であった。
 一冊の本に相応しい最後の物語である。与五郎とおさとの静かな再会。そして何も約束などはしていないが、おさとが描く老後。若く美しい時期を過ぎた二人が、穏やかにたおやかに迎えようとする終焉に胸が詰まる。
 雪の中での再会が、老齢に達した二人の背景を、美しく描いている。

主要登場人物
 おさと...丹阿弥の隠居
 清吉...上京笹屋町・饅頭処丹阿弥の主
 おけい...清吉の女房
 吉之助...中立売智恵光院織屋奈良屋の二男、おさとの亭主
 与五郎...元寺町二条・小間物屋の手代

 澤田ふじ子氏の作品は初めて読んだが、どの作品も、奇麗な日本の情景を背負い、藤沢周平氏原作の映像のようであった。恥ずかしながら藤沢周平氏の原作を読んではいないが、方や映像と比べると、文字だけでここまで情景を表現出来る澤田ふじ子氏に感銘を覚えた。
 どんな境遇にあっても、心持ちで明日は開ける。そんな物語が大多数を締めている。
 12編全てが、往年の大映映画のように、結末を描かず、読者の想像を促すのも特徴的である。
 女心を募っただけの話ではあるが、どれもが身に詰まされる素晴らしい作品。「ぶったまげた」と、言わざる追えない逸品である。



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