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うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

新選組三番隊組長 斎藤一~二つの時代を生き抜いた「最後の剣客」~

2013年02月13日 | 新撰組関連
菊池道人

 2003年11月発行

 新選組きっての剣の達人との呼び声も高い、三番組組長の斎藤一の半生を描いた長編小説。

第一章 池田屋事件
第二章 油小路
第三章 必殺! 突き技ーー天満屋事件
第四章 敗走
第五章 新生の地 会津
第六章 春なき新天地
第七章 昨日の敵は今日の友なれど
第八章 侍たちへの挽歌ーー西南の役
最終章 永久(とわ)なれ 会津 長編

 新選組設立当初から隊に籍を置き、局長・近藤勇の信頼の厚かった、屈指の剣士・斎藤一の、京での戦いから、会津へと転戦。
 維新後は、会津藩士と行動を供にし、斗南で苦渋を舐め、やがて警視庁警部補として西南戦争に従軍し、武士道を全うしながらも、新選組時代に密偵として御陵衛士に潜入、または、暗殺を繰り返したことに、苦悶する斎藤の姿を描いている。

 小説であるが、作者の史実を追求しようと試みが、随所に現れ、ルポ的要素も強く、斎藤一という人物を知る上では、資料的な作品とも言えるだろう。
 ただ、ところどころで「おやっ?」と思わせる部分があり、それは、当方が知りうる事実と若干の違いがある。
 しかし、参考文献として列記されている莫大な資料の数々を踏まえての作品なので、当方の情報の違いの可能性が大きいのだが…。
 例えば、山崎烝は江戸への帰還中の富士山丸の中で死亡とされているが、本書では、鳥羽伏見の戦にて戦死。
 同じく、斉藤一も富士山丸にて帰還となっているが、富士山丸は近藤、土方歳三、沖田総司と負傷兵であり、斎藤は永倉新八らと順陽丸にて帰還である。
 また、最初の妻である篠田やそと高木時尾の件は、完全にフィクションだろうと思われる。
 篠田家は「諸士系譜」からも確認される名家で、会津藩士としては大身に属する。
 さらに、斎藤と高木時尾は斗南藩時代の再婚であるとされるが、本書では東京に出てからとなっている。
 小説であるので、多少の演出は踏まえた上だが、やその弟・春吉に関する記述は、フィクションであると著者が唱っているにも関わらず、そのほかに関しては何も注意書きがないので、当方がこれまで踏まえていた史実が違っているのか、今後も目を離せなくなった。
 薩摩藩との関わりなどは、物語を盛り上げるフィクションだろう。
 小説なのだから…分かってはいるが、ほかの部分がルポ的に忠実なので、ほんの些細な食い違いが気になるといったことである。
 物語としては、斎藤一という男の気骨を感じさせる良い話である。
 「今、会津を見捨てるは、武士道に非ず」。このひと言が斎藤一の全てを物語っているだろう。
 かくゆう、新撰組フリークとしてあちこち史跡を訪ね歩く当方が、隊内で最も好きなのは、斎藤一である。




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新選組全史~幕末・京都編~

2013年01月17日 | 新撰組関連
中村彰彦

(単行本「決断! 新選組」 1985年発行を加筆改正し改題)

 2001年7月発行

 近藤勇と多摩の名士たちとの関わりから新選組絶頂期までの歴史書。

はじめに
第一章 試衛館の青春
第二章 新選組誕生
第三章 怒濤と化して
第四章 絶頂の時
第五章 伊東甲子太郎の新選組加盟
第六章 逝くもののごとく

 近藤勇が試衛館の跡目となり、やがて浪士組として京に上る。その後、新選組絶頂期を迎え、伊東甲子太郎加盟までを膨大な資料を元に著者が検証、推理した歴史書である。
 新選組史書のバイブルと言われる、子母澤寛氏の「新選組始末記 」、「新選組遺聞」、「新選組物語」三部作始め、新選組二番組組長・永倉新八著述の「新選組顛末記」、「浪士文久報国記事」や、 元隊士が後に残した書籍を読み下し、文献を照らし合わせ、これまでの定説の過ちや、著者の受け止め方を記している。
 また、新選組の支援者でもあった日野宿組合名主・佐藤彦五郎(土方歳三の義兄)や多摩郡小野路村名主・小島鹿之助らの証言から、近藤勇の人物像にも迫っている。

 これまで新選組に関する書籍は幾冊か読んでいたが、新たな発見に胸を躍らせたのは、近藤は気さくな人物でアあったらしいが、所謂(いわゆる)試衛館の若様であり、下からの叩き上げの者への労いに掛けていたといった記述。
 さらに、彼らと接触をした他藩の士族の記述で、土方歳三とは、柔和で人当たりも良く、配下への心配りが出来、近藤に欠けている部分を補っていたという点。土方が参謀につかなければ、近藤では隊をまとめ上げられなかったどろうと。
 これは、会津に行ってからの土方の評価と同じであった。これまでの鬼の副長への見方が変わった節である。
 また、子母澤寛氏の新選組三部作を読んで、彼はルポライターだと思っていたが、昨今作家と知り、その内容も本人が作り話と語っていたと本書は記している点。さらに、新選組三部作の中で谷万太郎と谷三十郎の項において、これまでの自分の知識と違い頭を捻ったものだったが、中村氏は、子母澤氏は万太郎と三十郎を取り違えていると断言している。それなら、当方の疑念も解決したのだった。
 これは当時の編集者の手落ちであろう。
 このように、目から鱗の内容が詰まった資料としても一級品の作品であった。
 新選組ファンであれば是非とも目を通していただきたい一冊である。
 関連書籍に「新選組全史~幕末・函館編~」がある。




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