川口市に、ものすごく太いうどんを出す、一風変わったお店があることを知った。
その店名は『因業屋』(いんごうや)。なるほど、屋号自体も変わっている。
店名通り、頑固で意地悪なオヤジがいるのかと、ネットでこのお店について調べてみたところ、
屋号の由来について店主が、“「因業」は本来、悪い意味ではない”と語っていたようだが、
それがどんな意味で、どのサイトなのかは忘れてしまった(「食べログ」でないのは確か)。
とにかく、おっかない店ではないようなので、ぶっというどんを食べに川口へと足を運んだ。
お店は、基本年中無休だが、ごくまれに臨時休業もあるらしい。私が初訪問した日がそうだった(泣)。
2度目の訪問となった先日、今度はちゃんと営業していたので、入店することができた。
店内はカウンター5席にテーブル席。厨房にいた男性店主が「いらっしゃい。お好きなお席へどうぞ」と迎えてくださったので、
調理の様子がうかがえる、カウンター席に座らせてもらう。店内清掃は行き届いており、不潔感はなし。
銀色の髪を後ろで束ね、一見怖そうにも感じる店主だが、声のトーンは柔らかだった。
お店のメニューはこちら。写真がヘタなのはいつものことなのでカンベン。まずは麺類。
表記は「そば」だが、ほとんどのメニューが「うどん」にできるようだ。裏面には、お酒やおつまみ類。
そば・うどん店には珍しくワインが豊富で、チーズやサラミなど、ワイン向けのつまみも用意してある。
最近、飲んだあとの食事がツラくなってきたので、酒類は頼まず、いきなりカレーうどんを注文。
店主は調理中にもたびたび、「今日はこれから寒くなるそうですね」などと話しかけてくれた。全然因業オヤジではないぞ。
カレーソースの入った鍋を、ヘラを用いて一定のリズムで何度も何度も丁寧に混ぜ合わせ、
芳香が店内に充満し、店主の手が止まりようやく完成…と思いきや、太いうどんが茹で終わらない様子。まあ当然だわな。
その後、ようやくうどんが丼に盛られ、肉うどん用の具材を煮た鍋(?)から、お肉と煮込み汁をお玉で1杯ずつすくう。
そこへ、さきほどのカレーソースがたっぷりと注がれ、ネギを飾って完成。これが「かれいうどん」1000円だ!
※わかりづらいけど、丼は深くてデカいサイズ
右側にチラリと見えるモチみたいなのが、例の超スペシャル極太うどんだ。ガキみたいな表現でスマン。
「けっこう辛いですよ」と店主が忠告してくれたが、他に告げるべきことがあるのでは(笑)。
ダシで割らず、ほぼカレーだけでドロドロ状態のスープから、うどんをすくってみた。
ハシとの比較でおわかりだろうが、普通のうどんの8本分くらいの太さで、それが3本入っている。
写真に収めるべく持ち上げたら、カレーが衣服に跳ねまくり。どうにもイキのいいうどんである。
別アングルがこちら。こうして見ると、うどんというより穴子の白焼きのようだね。
うどんをすするのではなく「かじって」みると、小麦の甘い味がした。無論、中心が生、なんてこともない。
なお、店主の忠告通り、カレーは本当に辛かったが、あとから旨味がジワジワくる、クセになる辛さであった。
私がカレーうどんと、文字通り格闘している間、店主は黙々と、メニューにない料理の仕込みをしていた。
その仕込みを気にしつつ、穴子みたいなうどんと肉を食べ終わり、残るはスープだけ。
丼に口を付けて飲もうとしたら(レンゲなどはない)、カウンター越しに「よかったらどうぞ」と、そば湯が出てきた。
そのタイミングで店主に、「カレーも辛くて美味しいですが、とにかくうどんがスゴいですね!」と感想を述べたところ、
「これが本当のうどんなんです」とおっしゃり、さらに「よそのは麦で作った麺でして、うどんのどんではないんです」。
うどんのどん!? 初めて耳にした言葉だ。
「それって、漢字で書く饂飩の飩ですか?」とたずねたが、曖昧な返答しかいただけなかった。
うどんの歴史をたどれば、どんor飩の意味がわかるのだろうか。とりあえず、今の私にはサッパリわからない。
ただ、ここのうどんが、奇をてらったものではなく、店主の信念がこめられた商品であることは理解できた。
あと、「よそのは麦で作った麺」という発言も、あくまで店主の個人的意見であり、自身のうどんに誇りはあれど、
「ウチは本物で、よそは偽物」というような、他店を批判するようなニュアンスでなかったことは断言しておく。
この御方が、同業者を罵り己を上に見せるような、器量の狭い方じゃないのは、会話しただけで理解できた。
とにかく、こちらの店主は、ひと言で表すのが難しい。熟練、洒脱、枯淡、達観、大胆…どの言葉も当てはまる。
そんな奥の深い方と、もう少しお話ししたいと思い、順序が逆だが、ここでびんビールを追加注文。
奥の冷蔵庫から、好きな銘柄を自分で選んで取り出し、店主が鉄製のコップと栓抜き、お通しの揚げたソバを出してくれる。
冷蔵庫の脇には、旅行関連の書籍が多数。そういえば、店内にはワインの空きボトルの他、世界中のお土産らしきものが多数。
店主に「旅行とかお好きなんですか」とたずねてみたら、「そうですね。だからたまにお店も休む」とのこと。
旅行といっても、私の「大阪西成ツアー」のような小規模なものではなく、過去には7ヶ月も休んだことがあるらしい。
「今年の5月にも、1ヶ月くらいフランスに行ってきます。知り合いにそば打ちを頼まれちゃって」。
どうやら、世界中に大勢の知人がいるようだ。店主の人間的深みの理由がわかった。
そういえば、びんビールのおつまみを紹介していなかった。このとき私が注文したのは水餃子。
さっき、「メニューにない料理の仕込みをしていた」と記したが、その料理こそ餃子であった。
餃子には目がない私が「それは裏メニューですか?」とたずねたら、「イヤ、夕飯のおかず(笑)」だって。
あとでご夫妻で食べるらしい。「餃子お好きですか。よかったら少しお分けしましょうか?」という店主の申し出に、
「ぜ、ぜひいただきます」と遠慮せず食べさせてもらうことに。我ながら、初入店のくせに図々しいと思う。
こちらがその「この日限定・本来はまかないの水餃子」(特別価格500円)。うどんダシで煮込んであり熱々だ。
中身はたっぷりのお肉に、粗目に刻んだ白菜、玉ねぎ、ニラ。玉ねぎの甘みとシャキシャキ感が心地よかった。
写真はないが、「これも使ってください」と、ワインの空きびんに入った、自家製ラー油も垂らしてみた。
そういえば、おそば屋さんなのに、自家製ラー油があるのは珍しいね。
ビールと餃子で、もはや満腹状態だったのだが、上の行で書いたように、ここはおそば屋さんである。
実際、因業屋さんはそばをウリにしているようなので、「せっかくなので、もりそばもお願いします」。
すぐに、ツユと、薬味のわさび、大根おろし、ネギが提供され、その後、冷水で締められたそばがやってきた。
こちらが「もりそば」800円。大きな平皿に、予想以上にたっぷりのおそばが盛られている。
食べきれるかな…と心配していた私に、店主が「残り半分になったら言ってください。温めなおします」と不思議な提案。
よくわかってない私に対し、「ウチのそばは、温めると10倍うまくなるから」だって!
要するに、ラーメン店の「つけ麺・熱盛」のようなものらしいが…10倍ってのは楽しみ。
店主が打った自家製の十割そばは、一般的なものより太めで、平べったくフェットチーネのよう。
普段私が食べている、乾麺や立ち食いソバとは一線を画す、蕎麦粉本来の味がする麺であった。
このままでもじゅうぶん満足できるのだが、提案通り半分食べ終えたところで店主に合図すると、
もう一度麺を茹でる網(=てぼ)にそばを入れ、サッと湯通しし、湯切り後は水で締めず、そのままお皿に再度盛りつけ。
「まずは、ツユに付けず、そのまま食べてください」の指示に従い、まだ温かいそばを口に含んだところ、
「あっ! 全然違う!!」
10倍かどうかはともかく、そばの香りが増幅している。こんなの初めて食べた!
店主によると、「歯触りやのど越しを楽しむなら冷やしですが、蕎麦粉の風味を楽しむなら温かいのに限ります」。た、確かに…。
「日本酒が冷やより燗の方が美味しいのと同じです」。あ、それは私も聞いたことある。「いい酒蔵の杜氏は温めて飲む」って。
ここで私が「普通のおそばだと、ここまで美味しくなりませんよね?」とたずねたら、
「そうです。うちの十割そばだから温めても美味しいんです!」と、誇らしげに答えてくれた。
満腹だったにもかかわらず、大盛りのそばを全部食べ切り、さきほど、カレーうどんのときにも出てきた、
そば湯が再度登場し、ツユに入れて飲み干し、ごちそう様。
こちらの食器は、陶芸家に作ってもらう特注品らしく、このお皿もそうなのだが、先日、何枚かまとめて割ってしまったらしい。
写真のお皿に茶色い線が入っているのは、継いだためである。ただ、安易に捨てないところに、器への愛情を感じるね。
うどん、そば、ワイン、食器、旅行の書物…それに、まかない餃子(笑)。お店の随所に、店主の心が反映されている。
ほんの数時間の滞在で、これほど心地よい気分になったお店は、久しぶりだった。
お会計後、今度は牛肉を煮込み始めた店主。もちろん、それらしき料理はメニューに見当たらない。
聞いてみたら「このあと、“ワインを飲む会”があるので、そのための料理」だそうだ。
こちらのお店では、ワイン愛好家が集まり、イベントを開催することがたびたびあるそうだが、
「これは、近江牛のA5ランクで作るすき焼きで、今日の会費はひとり2万円」。あ、私には手が出ない会ですね(苦笑)。
あの御方が作る高級牛肉のすき焼き、絶対ウマいだろうねえ。
お店を出ると、さっき語っていたように、いまにも雪が降りそうな低気温だったはずだが、
魅力あふれる店主とのトークで、お腹以外も満たされ、心身ポカポカだった私は、全然寒くなかった。
次回は、おつまみでゆっくり飲んで、シメにおそばを食べさせてもらおう。
そういえば、「うどんのどん」についても、くわしく教えてもらわなくては!
因業屋
埼玉県川口市中青木1-11-28
JR川口駅から徒歩約13分、西川口駅からは徒歩約28分
営業時間 12時~15時、18時半~22時
定休日 基本、年中無休だが臨時休業あり
※来店前に要連絡、とのこと
その店名は『因業屋』(いんごうや)。なるほど、屋号自体も変わっている。
店名通り、頑固で意地悪なオヤジがいるのかと、ネットでこのお店について調べてみたところ、
屋号の由来について店主が、“「因業」は本来、悪い意味ではない”と語っていたようだが、
それがどんな意味で、どのサイトなのかは忘れてしまった(「食べログ」でないのは確か)。
とにかく、おっかない店ではないようなので、ぶっというどんを食べに川口へと足を運んだ。
お店は、基本年中無休だが、ごくまれに臨時休業もあるらしい。私が初訪問した日がそうだった(泣)。
2度目の訪問となった先日、今度はちゃんと営業していたので、入店することができた。
店内はカウンター5席にテーブル席。厨房にいた男性店主が「いらっしゃい。お好きなお席へどうぞ」と迎えてくださったので、
調理の様子がうかがえる、カウンター席に座らせてもらう。店内清掃は行き届いており、不潔感はなし。
銀色の髪を後ろで束ね、一見怖そうにも感じる店主だが、声のトーンは柔らかだった。
お店のメニューはこちら。写真がヘタなのはいつものことなのでカンベン。まずは麺類。
表記は「そば」だが、ほとんどのメニューが「うどん」にできるようだ。裏面には、お酒やおつまみ類。
そば・うどん店には珍しくワインが豊富で、チーズやサラミなど、ワイン向けのつまみも用意してある。
最近、飲んだあとの食事がツラくなってきたので、酒類は頼まず、いきなりカレーうどんを注文。
店主は調理中にもたびたび、「今日はこれから寒くなるそうですね」などと話しかけてくれた。全然因業オヤジではないぞ。
カレーソースの入った鍋を、ヘラを用いて一定のリズムで何度も何度も丁寧に混ぜ合わせ、
芳香が店内に充満し、店主の手が止まりようやく完成…と思いきや、太いうどんが茹で終わらない様子。まあ当然だわな。
その後、ようやくうどんが丼に盛られ、肉うどん用の具材を煮た鍋(?)から、お肉と煮込み汁をお玉で1杯ずつすくう。
そこへ、さきほどのカレーソースがたっぷりと注がれ、ネギを飾って完成。これが「かれいうどん」1000円だ!
※わかりづらいけど、丼は深くてデカいサイズ
右側にチラリと見えるモチみたいなのが、例の超スペシャル極太うどんだ。ガキみたいな表現でスマン。
「けっこう辛いですよ」と店主が忠告してくれたが、他に告げるべきことがあるのでは(笑)。
ダシで割らず、ほぼカレーだけでドロドロ状態のスープから、うどんをすくってみた。
ハシとの比較でおわかりだろうが、普通のうどんの8本分くらいの太さで、それが3本入っている。
写真に収めるべく持ち上げたら、カレーが衣服に跳ねまくり。どうにもイキのいいうどんである。
別アングルがこちら。こうして見ると、うどんというより穴子の白焼きのようだね。
うどんをすするのではなく「かじって」みると、小麦の甘い味がした。無論、中心が生、なんてこともない。
なお、店主の忠告通り、カレーは本当に辛かったが、あとから旨味がジワジワくる、クセになる辛さであった。
私がカレーうどんと、文字通り格闘している間、店主は黙々と、メニューにない料理の仕込みをしていた。
その仕込みを気にしつつ、穴子みたいなうどんと肉を食べ終わり、残るはスープだけ。
丼に口を付けて飲もうとしたら(レンゲなどはない)、カウンター越しに「よかったらどうぞ」と、そば湯が出てきた。
そのタイミングで店主に、「カレーも辛くて美味しいですが、とにかくうどんがスゴいですね!」と感想を述べたところ、
「これが本当のうどんなんです」とおっしゃり、さらに「よそのは麦で作った麺でして、うどんのどんではないんです」。
うどんのどん!? 初めて耳にした言葉だ。
「それって、漢字で書く饂飩の飩ですか?」とたずねたが、曖昧な返答しかいただけなかった。
うどんの歴史をたどれば、どんor飩の意味がわかるのだろうか。とりあえず、今の私にはサッパリわからない。
ただ、ここのうどんが、奇をてらったものではなく、店主の信念がこめられた商品であることは理解できた。
あと、「よそのは麦で作った麺」という発言も、あくまで店主の個人的意見であり、自身のうどんに誇りはあれど、
「ウチは本物で、よそは偽物」というような、他店を批判するようなニュアンスでなかったことは断言しておく。
この御方が、同業者を罵り己を上に見せるような、器量の狭い方じゃないのは、会話しただけで理解できた。
とにかく、こちらの店主は、ひと言で表すのが難しい。熟練、洒脱、枯淡、達観、大胆…どの言葉も当てはまる。
そんな奥の深い方と、もう少しお話ししたいと思い、順序が逆だが、ここでびんビールを追加注文。
奥の冷蔵庫から、好きな銘柄を自分で選んで取り出し、店主が鉄製のコップと栓抜き、お通しの揚げたソバを出してくれる。
冷蔵庫の脇には、旅行関連の書籍が多数。そういえば、店内にはワインの空きボトルの他、世界中のお土産らしきものが多数。
店主に「旅行とかお好きなんですか」とたずねてみたら、「そうですね。だからたまにお店も休む」とのこと。
旅行といっても、私の「大阪西成ツアー」のような小規模なものではなく、過去には7ヶ月も休んだことがあるらしい。
「今年の5月にも、1ヶ月くらいフランスに行ってきます。知り合いにそば打ちを頼まれちゃって」。
どうやら、世界中に大勢の知人がいるようだ。店主の人間的深みの理由がわかった。
そういえば、びんビールのおつまみを紹介していなかった。このとき私が注文したのは水餃子。
さっき、「メニューにない料理の仕込みをしていた」と記したが、その料理こそ餃子であった。
餃子には目がない私が「それは裏メニューですか?」とたずねたら、「イヤ、夕飯のおかず(笑)」だって。
あとでご夫妻で食べるらしい。「餃子お好きですか。よかったら少しお分けしましょうか?」という店主の申し出に、
「ぜ、ぜひいただきます」と遠慮せず食べさせてもらうことに。我ながら、初入店のくせに図々しいと思う。
こちらがその「この日限定・本来はまかないの水餃子」(特別価格500円)。うどんダシで煮込んであり熱々だ。
中身はたっぷりのお肉に、粗目に刻んだ白菜、玉ねぎ、ニラ。玉ねぎの甘みとシャキシャキ感が心地よかった。
写真はないが、「これも使ってください」と、ワインの空きびんに入った、自家製ラー油も垂らしてみた。
そういえば、おそば屋さんなのに、自家製ラー油があるのは珍しいね。
ビールと餃子で、もはや満腹状態だったのだが、上の行で書いたように、ここはおそば屋さんである。
実際、因業屋さんはそばをウリにしているようなので、「せっかくなので、もりそばもお願いします」。
すぐに、ツユと、薬味のわさび、大根おろし、ネギが提供され、その後、冷水で締められたそばがやってきた。
こちらが「もりそば」800円。大きな平皿に、予想以上にたっぷりのおそばが盛られている。
食べきれるかな…と心配していた私に、店主が「残り半分になったら言ってください。温めなおします」と不思議な提案。
よくわかってない私に対し、「ウチのそばは、温めると10倍うまくなるから」だって!
要するに、ラーメン店の「つけ麺・熱盛」のようなものらしいが…10倍ってのは楽しみ。
店主が打った自家製の十割そばは、一般的なものより太めで、平べったくフェットチーネのよう。
普段私が食べている、乾麺や立ち食いソバとは一線を画す、蕎麦粉本来の味がする麺であった。
このままでもじゅうぶん満足できるのだが、提案通り半分食べ終えたところで店主に合図すると、
もう一度麺を茹でる網(=てぼ)にそばを入れ、サッと湯通しし、湯切り後は水で締めず、そのままお皿に再度盛りつけ。
「まずは、ツユに付けず、そのまま食べてください」の指示に従い、まだ温かいそばを口に含んだところ、
「あっ! 全然違う!!」
10倍かどうかはともかく、そばの香りが増幅している。こんなの初めて食べた!
店主によると、「歯触りやのど越しを楽しむなら冷やしですが、蕎麦粉の風味を楽しむなら温かいのに限ります」。た、確かに…。
「日本酒が冷やより燗の方が美味しいのと同じです」。あ、それは私も聞いたことある。「いい酒蔵の杜氏は温めて飲む」って。
ここで私が「普通のおそばだと、ここまで美味しくなりませんよね?」とたずねたら、
「そうです。うちの十割そばだから温めても美味しいんです!」と、誇らしげに答えてくれた。
満腹だったにもかかわらず、大盛りのそばを全部食べ切り、さきほど、カレーうどんのときにも出てきた、
そば湯が再度登場し、ツユに入れて飲み干し、ごちそう様。
こちらの食器は、陶芸家に作ってもらう特注品らしく、このお皿もそうなのだが、先日、何枚かまとめて割ってしまったらしい。
写真のお皿に茶色い線が入っているのは、継いだためである。ただ、安易に捨てないところに、器への愛情を感じるね。
うどん、そば、ワイン、食器、旅行の書物…それに、まかない餃子(笑)。お店の随所に、店主の心が反映されている。
ほんの数時間の滞在で、これほど心地よい気分になったお店は、久しぶりだった。
お会計後、今度は牛肉を煮込み始めた店主。もちろん、それらしき料理はメニューに見当たらない。
聞いてみたら「このあと、“ワインを飲む会”があるので、そのための料理」だそうだ。
こちらのお店では、ワイン愛好家が集まり、イベントを開催することがたびたびあるそうだが、
「これは、近江牛のA5ランクで作るすき焼きで、今日の会費はひとり2万円」。あ、私には手が出ない会ですね(苦笑)。
あの御方が作る高級牛肉のすき焼き、絶対ウマいだろうねえ。
お店を出ると、さっき語っていたように、いまにも雪が降りそうな低気温だったはずだが、
魅力あふれる店主とのトークで、お腹以外も満たされ、心身ポカポカだった私は、全然寒くなかった。
次回は、おつまみでゆっくり飲んで、シメにおそばを食べさせてもらおう。
そういえば、「うどんのどん」についても、くわしく教えてもらわなくては!
因業屋
埼玉県川口市中青木1-11-28
JR川口駅から徒歩約13分、西川口駅からは徒歩約28分
営業時間 12時~15時、18時半~22時
定休日 基本、年中無休だが臨時休業あり
※来店前に要連絡、とのこと