拝啓 夏目漱石先生

自称「漱石先生の門下生(ただのファン)」による日記

『PLAY』/安室奈美恵

2007-10-20 21:25:00 | アルバムレビュー
『PLAY』/安室奈美恵

1. HIDE&SEEK ★★★★
冒頭のホーンに意表をつかれ、天井無しで曲のテンションがグイグイと上がっていく。マーチ風、軍隊風なビート。このアレンジが、ムチを手にしたジャケに繋がったのだろうか。「いつ息継ぎするんだ?」と心配してしまうような難易度の高そうな曲を、余裕で歌いこなす安室、頼もしい。

2. FULL MOON ★★★★
冒頭で銅鑼がボォォ~ンと鳴り響く。これまた意表をつくアレンジ。ゆらゆらしたファルセットで色っぽく歌う。ポヤーンとしたエフェクトがかかったボーカルが色気増幅。タイトルにあるように、満月の力で発情しちゃった、みたいな曲。わかりやすい盛り上がりポイントが無いのでボーっとしながら聴いてると、淡々としていて印象に残らない曲にしか思えないかもしれないが、このボンヤリ感はハマると病みつきになる。

3. CAN'T SLEEP, CAN'T EAT, I'M SICK ★★★
ちょっとイライラしてる時に聴くと軽くムカっとくるような陽気なホーンのループが楽しい曲。洋楽R&Bから直輸入したような曲だが、一曲の中で声質をコロコロと変えて歌う点になんとなく安室らしさがうかがえる。囁くような歌唱で、曲名から伺える色ボケぶりを見事に表現している。

4. IT'S ALL ABOUT YOU ★★
色ボケしてたと思ったらこの曲では相手に愛想を尽かしたかのように攻撃的。ノイズが随所でガーガー鳴りまくり。アルバム中で最もぶっ壊れた安室を堪能できる一曲。そんなもの堪能したくない人には用の無い一曲か。

5. FUNKY TOWN ★★★
CMでよくかかってた曲。ノリノリで踊る安室が目に浮かぶ。キャッチーかつファンキー過ぎてアルバムの中で妙に浮いている気がするが曲自体は良い。「アーゥ!」「ウー!ハッ!」という、荒っぽい男の合いの手のループにまで耳を澄ませて笑おう。終盤にブレイクタイムも用意されているので、安心して踊りながら聴くのがベストだろう。

6. STEP WITH IT ★
スタイリッシュなR&Bだが、1~5曲目に妙にアクの強い曲ばかりが揃ってしまったのであまり印象に残らない。こういうのならクリスタルケイとかも歌ってそうだしな。歌詞はそこそこ過激。「FUNKY TOWNで男と踊り狂い、その後…」みたいな。

7. HELLO ★★
「私、今忙しいからあなたからの電話に出てるヒマないの」みたいな曲。電話のベルの音が良いアクセントになっている。男に振り回されないカッコイイ女・安室を演出したのだろう。個人的にこんなじらしプレイをされてもムカつくだけだが、M男は喜ぶだろう。

8. SHOULD I LOVE HIM? ★★★★
コーラスを重ねた切ないバラード。前曲は男を振り回す女だったが、今度は逆に翻弄されている。ここまで殆ど攻めっぱなしだったのでここらでクールダウン。安室の歌うバラードというと大味で壮大、みたいなイメージがあったが、この曲は、ちゃんとアルバムのカラーに合うシックなものになっている。

9. TOP SECRET ★★
また攻めモードに戻る。アグレッシブに歌ったり囁いてみたり。インパクト大のスリリングなシンセがイントロで鳴り、かなり期待を煽られるが、サビの盛り上がりが今ひとつ。…いや、確かに盛り上がってるのだが、もう一ひねり…。全体を貫くシリアスな雰囲気はかっこいいけれども。

10. VIOLET SAUCE(SPICY) ★★★
ヘヴィーなギターのリフが随所でうなる、終始ミステリアスでロックな曲。サビの「dip it in the sauce」の部分が延々繰り返されるので、一通り曲を聴いただけであのメロディーが耳から離れなくなる。歌詞にあるように「マインドコントロール」されるのかもしれない。曲の終わり方に幻惑される。

11. BABY DON'T CRY ★★★★
雨上がりの爽やかな空気を感じさせる、軽やかなミディアム曲。水滴が日に照らされてキラキラしてる感じも音からなんとなく想像できる。寂しげ歌い出しから優しく元気付けるような開放的なサビへの展開と歌詞が密接にリンク。
苦労人・安室が歌う「諦めないで」「良くなる方にとらえたら?」というメッセージは重く響き、説得力もある。どうでもいいが、「don't cry」と「どのくらい」をかけた曲って多いなぁ。

12. PINK KEY ★★★
エンドロールのような曲。一曲目を盛り上げた鼓笛隊たちが再びやってきたような趣き。前向きな歌詞で埋め尽くされた、実に軽く可愛らしいポップス。終盤の「Now is time to find your way」から冒頭の「left right」に戻る展開は感動的。

総評 ★★★☆
本格R&Bを取り込み、持ち前の歌唱力で表現するというスタイルもなんとなく定着した安室。とにかく濃いトラックばかりだが、洋楽直輸入の楽曲に染まりきっているわけではなく、いくつかの曲では全盛期のアイドル性も微かに感じられる。故に「路線変更後の安室はちょっと…」な人でも結構聴けるのでは。普段R&Bを聴かない人も、人によっては一癖も二癖もあるトラックにハマる可能性があるので、試聴して一曲目か二曲目のイントロに心を掴まれたら、レンタルするなりして全部聴いてみることをすすめる。「HIDE&SEEK」聴いて腰が動くか動かないかで聴くべきか否かが決まる。一曲の中で、R&B仕様だったりJ-POP仕様だったり、囁いてみたり呟いてみたり鼻歌を歌ってみたり、様々なボーカルスタイルに挑戦しまくっているので飽きにくい。