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カムイ外伝

2009年09月28日 | か行 日本映画
江戸時代、厳格な身分制度に縛られていた世界。最下層の身分ゆえに、忍となったカムイ。しかし、忍の世界も、なんら変わることはなかった。

忍は、抜けることは出来ない。もし抜けてしまったら、死ぬまで追われ続ける。抜け忍となった人々の死を見届けてきながらも、彼は結局抜け忍となってしまった。今日は追われる身となったカムイ。

ある日、領主のお殿様の狩りの最中、大胆にもお殿様の馬の足を切り落とした男と出会う。まったく悪びれもせずに悠々と振舞う男に目を留めたカムイ。男は半兵衛。漁師だった。馬のひづめは最高の疑似餌になるのだった。

半兵衛と海まで逃げるが、半兵衛の意外な行為によって、カムイはおぼれてしまう。危うく助かるが、流れ着いたところは半兵衛の住む海辺の集落。そこで、カムイは助けられ、思いもかけない人物と出会う。

結局、半兵衛一家に面倒を見てもらい、そのまま漁師として暮らしていけるのではないかと淡い期待を抱くのだが、そう甘くはない。いつの間にか忍び寄る追忍の影。彼には安らぎなど、幻想なのか・・・・。


つうことで、『カムイ外伝』・・・。いわずと知れた白土三平の代表作である。といっても、どれくらいの人がこの漫画を手にしてるのかは不明だが、外伝というからには、当然『カムイ伝』がある。私の人生狂わせた漫画だ。

手塚はただ昔からのファンで、とてつもなく好き!と言うことなのだが、この白土の『カムイ伝』を読んだときの衝撃は計り知れなかった。江戸時代の厳格な身分制度の中で起こるさまざまな人間模様。悲劇もあれば、喜劇もある。

醜い争いを繰り返す世の習いの中で、凛として生きる正助という一人の若者に惚れてしまった。カムイはこの際脇役で、主人公は正助である。彼の信念は凄まじい。名前があらわすようにまっすぐで正しい道を行こうとする。

しかし、なぜか人間はそのことを良しとしない。時代も世間も、同じ村に住み、同じ苦労を分かち合う仲間さえもその生き方を阻もうとする。そして身分なるものを作り出した政治への痛烈な批判。その中で生きる象徴の一人がカムイなのだが、その生き方は、身分に抗い、己の力でこの世にどこまでも挑戦しているかのように見える。

おかげで、私はどうしても日本史の勉強がしたくなり、大学でそんな専攻をしてしまい、今にいたるが、もしや高校のときに『カムイ伝』を読まなかったら、私は違う道に行ってたと思う。そんな漫画が『カムイ伝』であり、今風に言うと、スピンオフが『カムイ外伝』だ。

自分のことなどどうでもいいが、まあ自分にとって非常に思い入れがある話だと言うことだ。

さて、映画。話は第二部の始まりの『スガルの島』だが、原作に忠実だ。クドカンの脚本なんで、おちゃらけもあるのかと思いきや、台詞までもが忠実で、原作への尊敬の念が感じられる。逆に、そこがしがらみになって、彼らしさが出てない気もした。

絵が激しく、線が荒っぽいのが白土三平のタッチの特徴で、そこがある意味魅力になっているのだが、そのイメージでいくと、映画はずいぶんときれいに感じられた。

そう、そこ。きれい過ぎた。カムイが表す世界は、人間社会のどん底で、汚く醜く、哀れをかもし出すほどに悲しい。人が見たくなる世界ではない。できれば目を背け、耳をふさぎ、遠回りして避けたい世界がカムイだ。

そこにあえて挑戦し、監督はとことん突き詰めたアクションと、チャンバラを描きたかったと言うことだが、そこはいい。ただ映像は時に明るく、きれいだった。今風なのだ。いくら汚くして、すすけた世界を作り出しても、なんか違ってる・・・という印象がぬぐえなかった。でも、あのカムイを何とか作り出そうとした挑戦は買う。

と、どうしても足りなかったのが色。これは女性の色。白土の漫画には、10頁に一回くらいは、必ず女性の裸が出る。そこで脱がなくても全然大勢に影響がないシーンでも、裸が登場する。そこで描かれるのはかなぐり捨てた女性としての意味と、最下層の人間の中でも、さらにまた虐げられ、踏みつけられ、陵辱される女性姿なのだ。

出来れば見たくない世界をあえて書くのが白土だ。これを不特定多数の多くの人に見せようとする映画にするのは、難しい。そんなことを感じた次第。

そんな中で、松ケンは白土の世界と現実のわれわれをつなぎとめるいい役割をしたのでは。配役はどれもぴったり。


ものすごく久しぶりに、本棚の『カムイ外伝』を引っ張り出した。『スガルの島』の4巻は昭和58年出版。かび臭かった。

◎◎◎

『カムイ外伝』

監督 崔洋一
出演 松山ケンイチ 小雪 伊藤英明 大後寿々花 イーキン・チェン 金井勇太 芦名星 土屋アンナ 佐藤浩市 小林薫


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14 コメント

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Unknown (mariyon)
2009-09-28 21:22:25
巷でいろいろ言われていますが、映画単体で考えれば、あくまで外伝だし、そこまで悪しざまに言われるほどの映画ではないと思うんです。
まあ、松ケンびいきですが・・・(笑)

たしかに原作を読めば読むほど、なぜこのエピソードを抜いたのか?みたいな部分はあります。裸のシーンもそう。
カムイを裸で温めるのが半兵衛だし(苦笑)

「スガルの島」のスペシャルコミック版を読みました。巻末に白土氏と監督と松ケンの対談が付いています。ここで、白土氏は松ケンに生身のカムイと絶賛しているし、監督は原作を穴のあくほど読んだとまで書いてありました。監督はこの話を読み過ぎて、読んでいない人間が映画を見るための説明部分を抜いてしまったのかと…思いました。

でも、原作を考えなければ、勢いで2時間観て、楽しめる映画にはなっているのではと思います。


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そうですね (KLY)
2009-09-28 21:37:33
私も「カムイ伝」「カムイ外伝」全部持ってます。この作品で“一揆”だとか“”だとかを覚えた記憶がありますね。完全な劇画で切腹をしったら内臓が出るなんて当たり前というぐらい荒々しいのがこの漫画でした。
アニメの外伝になって少しマシになったとはいえ、劇画調アニメであったのは間違いなく、それに比べたらsakuraiさんが言うとおり綺麗過ぎでしょう。迫力や荒々しさはVFXで血をドボドボ流せばそれで良い訳じゃないと思うんです。
カムイにメジャーは似合わないかな。出来たら「美代子阿佐ヶ谷気分」並みのマイナーでやってくれたほうが良かったかもしれません。ガロつながりでもあることだし。。。
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>mariyonさま (sakurai)
2009-09-29 09:02:02
見る方が何を期待して見るか・・・なんでしょうね。
いまどきの人は、一級品のワイヤーとか、VFXとかを見なれてるんで、あの辺がチープだと、どうしてもひいちゃいますから。
これでそのチープさを上回るストーリーだったらいいのですが、外伝は結構さらっとした話が多いですから。

そうか、監督は読み過ぎたんだ。細部の細部まで頭に入れて作るとこういうことになっちゃうんでしょうか。
全体の持つイメージで作った方が、もっと監督の色を出せたんでしょうがね。
松ケンはよかったです、とっても。
あとは小林薫は、さすがでしたね。
何気に土屋アンナがはまってました。
続編とかは、やめた方がいいと思う・・・。
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>KLYさま (sakurai)
2009-09-29 09:14:28
ただ汚い、っていうだけじゃない、いい表わすのが難しい・・。
出来れば見たくないけど、「見ろ!」というような力のある汚さなんすよね。変な日本語だ。
それを出せ、というのは無理でしょうが、なんかずいぶんとあっさり、綺麗でした。
崔監督なら、「血と骨」みたいに、人間ドラマで十分本領を発揮できるのになあ。
もっとマイナーに、完全にチープに作っちゃってもらしいかもですね。
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こんにちは~^^・ (由香)
2009-09-30 14:05:45
お邪魔します♪
原作を全然知らないのですが、sakuraiさんの記事を読んだら興味が湧いてきました。

それにしても、、、原作に忠実なところがあったのですか?映画は。
私はただのブツ切りエピソードの羅列に思えて、何が何だかよく分からなかったんです。
言わんとすることは何となく分かっても、物語の流れに常にブレーキがかかっているような感じで、ギクシャクした感があった気がします。
それからCGですよねぇ~
ジョーズなんかの登場は白けちゃいました。
個人的にはチグハグな映画だったなぁ~と思います。
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>由香さま (sakurai)
2009-09-30 16:38:51
忠実なところがあった・・・どころではなく、とっても忠実です。
もともと『カムイ外伝』が、感覚で読ませるようなところがありますからね。2時間の中で成立させる物語にする・・というのが合わないものなのかも。
まあ、監督の心意気というか、映画単体としてみると、それほどひどいとは思いませんでしたが、多くの人がぶつ切りに感じたというのは、全体のバランスと脚本を、もうちょっと考えるべきだったんでしょうか。
いまどきのわれわれは、派手で、凄いVFXに慣れてますから、そこもきつかったと思います。
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一応、楽しめました・・・ (マリー)
2009-10-01 20:07:08
こんばんは~~
sakuraiさん、そんなに思い入れのある作品の映画化、期待と不安でいっぱいだったのではありませんか・・・?
私も、原作世代ですが(ヘンな表現 笑)
本当に当時、こんなに汚いもの・酷いもの漫画でも見たくない~と思いながら、何故かひきこまれてました。人間の本性というか真の姿に打たれたのかもしれません。。。

映画化に当たって、脚本クドカン?って凄く不思議だったけど~そちらは大丈夫でしたね~。
ちょっとちゃちなワイヤーアクションもなんとかOKでした。
けど、カムイの心情というか、内面は描ききれてなかった。
やはり難しいものですね。。。

“変移抜刀霞斬り”の実写はよかったと思います~~~。
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>マリーさま (sakurai)
2009-10-02 20:36:29
いやーー、こういうのに裏切られるのは、慣れてますので。
「MW」ほどのショックではなかったです。
物語は忠実だったし、チャンバラとアクションを撮りたかったんだっていう監督の気持ちも聞いてたんで、見せたいのはそこだなと思ってました。
カムイの絵の、あの独特な世界は、他にはたとえられませんもんね。
あれは絵でいいんだと思います。
一番それが、現実に近いんだと思います。

クドカンは、ずいぶんとクドカンを抑えてましたね。拍子抜けするほどでした。
逆に、彼らしさを出した方が、よかった気もしますがね。まあ、原作に対して敬意を表したんだろうということにします。

霞斬りは、わかりやすかったですね。
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こんにちは (はらやん)
2009-10-10 07:00:02
sakuraiさん、こんにちは!

sakuraiさんは原作に非常に思い入れがあるんですねー!
僕は子供の頃に、原作の存在は知っていたのですが、白土さんのあの独特のタッチから、「コドモが読んじゃいけないもの」という印象を持ってしまい、結局読まずじまいでした。
大人になった今、改めて読んでみようかなあ。
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>はらやんさま (sakurai)
2009-10-14 07:39:20
あくまでも、「カムイ伝」の方で、外伝ではないのですがね。
人生狂わさせられましたから~。
「そんなこと言われても」って、白土先生に言われそうですが。
サスケは、見ました。
小学生の時でしたが、一種独特の世界で、自分がちょっと大人に近づいたかな・・・なんて思ったかも。
ぜひ、読んでください。
実家に置いてあったのですが、この前、持ってきちゃいました、豪華愛蔵版。
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