迷宮映画館

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上意討ち 拝領妻始末

2007年12月13日 | TV
映画はスクリーンで見るものという勝手な自戒で、映画に関しては、劇場で見たもののみをUPしていたが、どうしても見たかった映画を衛星放送で鑑賞。勝手な自戒を破ってUPする。

今週、BS2で特集している三船敏郎。彼の主演で、かの小林正樹監督の『上意討ち 拝領妻始末』。この夏見た『切腹』の重厚さにえらく感動して、どうしてもこれが見たかった。

モノクロの映像と、武満の音楽がぴったりマッチ。彼独特の節回しが、じわじわと物語が始まっていく息遣いを伝える。

映画冒頭、名刀を手に入れた藩のえらい衆が、馬廻り役・笹原伊三郎に藁人形を試し切りさせる。いくさもなくなり、武士といえども人など切ることもなくなった今、会津藩で一二を争う剣客の笹原も、腕を振るう相手はいまや藁人形ごときになってしまった。しかし、それもやむを得ないこと。

伊三郎は腕を見込まれて笹原家に養子に入り、20数年、笹原の家を守り、家付き娘のお内儀を立て、静かにお務めを果たしてきた。覇気などあってもしようがない。ただひたすら波風を立たぬように過ごしてきた。

その笹原家に突然のできごと。藩主の側室、おいちの方に不都合があって宿下がりとなったが、おいちを伊三郎の長男、与五郎に遣わすというのだ。一度、藩主の側室になった女性を、なまじなところにやるわけにもいかない。笹原ならば、大人しく、拝領するだろうとの簡単な考えだったのかもしれない。

当然、女当主は猛反対する。おいちは、自分が出産したあと、殿の傍らにいた新しい側室に殴りかかったというではないか。おまけに殿の胸ぐらまでつかんだと。そんな女を笹原の家に置くわけにはいかない。誰でも二の足を踏むことだったが、拝命だという。逆らえないが、簡単に受け入れることもできない。

意外にも、当の与五郎がおいちを迎えるという。二人の質素な祝言が挙げられる。おいちは暴力をふるったことなど、考えられないくらいに、穏やかで、素直で、いい嫁だった。姑の嫌味などにもいやな顔一つしない。

合点のいかない与五郎は、妻にどうして暴力をふるったのかを問いただした。そこで聞いたのは、無理やり婚約者と別れさせられ、いやいやながら大奥に上がり、愛情もない殿との営みのむなしさ。もうこんな思いをするのは自分だけでいいと願っていたところ、殿の傍らにいた若い側室の喜びに満ちたような顔に、どうにも腹が立ってしまったのだという。

おいちの気持ちの辛さをわがことのように受け取った与五郎と、彼の優しい気持ちに救われたおいちは、真の夫婦となり、お互いをいつくしみ、子供ももうける。伊三郎も隠居し、姑の好き放題にはさせない。いいことづくめで、なんの問題もないと思われたころ、事件が起こる。お世継ぎが急病でなくなってしまい、おいちの生んだ菊千代が、お世継ぎとなってしまった。まさか、世子の生母が、家来の妻というわけにはいかない。またぞろ大奥に召し上げとなった。

勝手で側室にし、打ち捨てたと思ったら、またぞろ召し上げ・・。何ともやりきれない藩に仕える武士の悲しさ。武士道とは名ばかりの保身のことしか頭にない醜い侍たちが、ガン首並べている。自分たちの生み出した不始末を、なんとかくるんで見えなくして、ますます見苦しいものにしてしまう、いまどきの企業の不始末によく似てる。

結局、その報いはおのれに帰ってもらわねば、あまりにきついのだが、どうやっても大団円にはならない時代の無情もしっかと描いている。まっすぐに生き抜くことの難しさ。自分でもどうにもならないむなしさ。姑の気持ちも、家を守ろうとする弟も、あまねく見せて、どれもわかるのだ。

いろいろと懐かしく、取りざたされてる三船だが、『用心棒』やら『椿三十郎』などで見せる、コミカルで、明るい茶筅頭の素浪人とは違って、きっちりまじめで、妻に頭の上がらない、やさしい爺の役だ。苦い顔しながら赤子を抱く姿がよく似合う。

セリフ回しの妙に、とにかくきっちり描いた構図も見事。まじめいい人させたらこの人の右に出るものはないだろうの加藤剛が、またはまってる。

そして最後の一騎打ち。宿敵であり、親友でもあった浅野帯刀・・・仲代達矢との決戦は、決まり事のように行われる。最近の、やけに格好よく、型にはめたかのような見事な剣さばきとはちがって、重々しい。もたついてるようにも見えるが、実際に剣を相戦わせたら、こうなるだろうとも思えるような立ち会いだった。

ところどころにちりばめられるセリフも味がある。「治に居て乱を忘れじ」とか「葬式済んでの医者話」とか、普通に何気なく交わされるのだ。うまいあああ。

やはり三船にはオーラがビンビンと感じられた。稀有な役者だということを改めて認識。衛星だろうが、何だろうが、これは見た甲斐があった。

『上意討ち 拝領妻始末』

監督 小林正樹  脚本 橋本忍
出演 三船敏郎 仲代達矢 大塚道子 神山繁 松村達雄 司葉子 加藤剛 市原悦子


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
おお (しん)
2007-12-14 23:41:51
おお、観ましたか
いいすよね。正樹

後半の怖じ気づいたきた加藤剛と逆にドンドンのりのりになっていく三船父ちゃんがなんか面白く、「わしはお前らの愛というものに うんぬん」みたいな台詞がなんかこっぱずかしいながらも、三船の唾とんでそうな演技でこっちも燃えてくる
まだ終わらんよ!!とばかりにスター同士の一騎打ち。漢と書いてオトコと読み、強敵と書いてトモと呼ぶのがよく似合う、三船と仲代。

「切腹」と「上意討ち」の2枚組DVDなんて出ないかなあ・・・と、織田三十朗の賞味期限中に勢いで発売してほしいです
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見ました、見ました! (sakurai)
2007-12-15 12:25:23
やっぱ、あんな凄みの映画見ちゃったらねえ。
つくづく順番間違えないでよかったですわ。
これ見てから、あれ見たら、きっとぼろくそどころではなかったかと。
いやいや、比較などしてはいけないのですが、やっぱ心情的に・・。
尻に敷かれてる三船も似合うし、「愛じゃ!」などと言い放つあたりも萌え!!でしたわ。
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