迷宮映画館

開店休業状態になっており、誠にすいません。

希望の国

2013年01月11日 | か行 日本映画
さて、出会いがしらの妙のあと、これは絶対に出会いがしらではない!人の力ゆえにこうなってしまったんだ・・・という作品を見る。新年早々、重たくて、重たくて、さわやかとは程遠いのだが、今の日本はこのくらいの重さでちょうどいいかもしれないとも思う。

ごく普通に、平々凡々に暮らしてきた牛を飼っている酪農家の小野泰彦。妻は、アルツハイマーっぽい症状で、時折夫を困らせるが、それもおおらかに受け止め、頼りがいの日本の親父。息子とその妻も仕事を手伝い、こじんまりと穏やかな暮らしを送っていた。その平和な日々を一瞬にして崩壊させたのが、地震。

これは空想の世界、近未来の世界となっているが、もちろん東日本大震災を表している。地震は家を傾かせ、家具を壊したりしたが、いくらでもやり直しがきく。直していくことができる。しかし、どうにもやり直しがきかない問題が起きる。いくら、頑張ってもこれだけはどうしようもない。原発の事故。

地震などめったに起こらない。原発の事故などない。これがなければ、あなた方は快適な暮らしができないでしょ!電気がない不便な生活を送ることなどできないでしょ!だったら、原発をありがたいと思いこそすれ、反対などできないはず。反対するんなら電気など使うな・・・・。

ごもっともだ。はい、その通りです。毎日、電気を使わせていただいてます。極寒の今、停電になったら、マジにやばいです。

はたと思う。我々は人質になっているのか、原発の。もし何か起こったら、人智ではどうしようもないものを人間は抱えているのだが、それがどんだけ大きなことなのかということを私たちは体験した。なのに、私たちは何もそこから学ばないのか???こうなったら、ああなる!と言うことを分かりながら、それでも変わろうとしないのか???こんなことをつらつら思いながらの鑑賞であった。

地震によって、小野の住んでいたところは警戒区域となってしまう。でも、それは道路を挟んでこっちとあっち。こっちはよくて、隣のあっちはだめ。うん、らしい話だ。道路はさんで、あっちはだめでこっちの空気はOK!なんてことがあるはずがない。小野の息子夫婦は、ここから避難しろと、父親に強く促され、家を出て、離れたところに住まう。

ここなら安心なのか?安心な場所などない。空気に壁は作れない。なんせ敵は目に見えない。神経質になって、何が悪い。お腹に子供がいるんだ。子供を守るのは当たり前でしょ。自分を放射能から守ろうとして、奇異な目で見られる彼ら。

誰でも不安なんだ。不安で不安でしようがない。それでも逃げられない。いや、逃げる気がないだけだ。ここなら大丈夫なんだと自分に言い聞かせているのに、なぜあおる?せっかく自分の中の不安を抑えているのに、あからさまに自分を守ろうとする夫婦を見て、笑う街の人々。笑わなきゃ、やってけない・・・で、己を納得させてるのだ。

隣までは安全だったのが、とうとう小野家まで避難区域になってしまう。当たり前だが。立ち退けと言われる主人。老い先短い夫婦に、どこに行けと。お偉いさんが決めたことだからしようがないと言っても、動く気さらさらない。

津波がなぎ倒して行ったところで、無邪気に盆踊りを踊る老いた妻。妻を探しあて、抱きしめ、何かを決意する男。そして男は銃を手にする・・・。

「ヒミズ」に続いて、監督が描く震災を受けた日本の姿だ。前作では、地震だけなら、津波だけなら、奪われた命を取り戻すことはできないけど、なんとか立ち直れる。やりなおすことができる。人間はそんなに弱い生き物ではない!どん底の、光も見えないような世界でも、一筋の光があるはずだ、という監督の希望を信じる思いを描いた・・・はずだったが、そのわずかな希望を打ち砕いたのが、原発の事故だ!と。


あれから1年10カ月。日々の生活は、変わらずに続いている。何事もなかったのように車を走らせ、あの長蛇の列のガソリンスタンドの周り喧騒は、本当にあったことなんだろうか・・・と思うほどに、穏やかだ。寒中の今、石油をがんがん焚いて、部屋をあったかくして、のんびりTVを見ながら、PCを打っている。これは行けないことなのか?悪いことをやっているのか?常にあのことを思い出せ!放射能が渦を巻いている!自分の身を守れるのは、自分だけだ・・・・・。と、常に危機感を持って、生きていくべきなのか。。。。

どちらも正しいだろうし、間違っているのかもしれない。なぜにこんなことになってしまったのかと考えた時、それはやはり原発のせいだ。それは間違いがない。目に見えない弾が飛び交っているという言葉。その通りだ。とにかく見えないのが厄介だ。見えないからからこそ、過剰な反応をする人を笑い飛ばしてしまう。そんな姿を見せながら、これらの全ての問題の根源を忘れてはならない!と言うのが、監督の思いなんではないだろうか。

何かあった時、人間の技術ではどうしようもないものを持った我々への代償?警鐘?いや、復讐?希望を持つためには、まず何をすべきなのか!と言うことを表したかったのではないか。そう思わなきゃ、最後が哀しすぎて、受け止められません。

なかなか咀嚼しきれてないですが、きっちりと描いた姿勢には敬服します。いろんなものが内包されてた。原発を持ち続けていればこうなるしかないとの一本道なんでしょうね。それは分かるのですが、どうにもスッキリしません。きっと、それが今の日本なんでしょう。

夏八木さんの存在感と、どっしりと大きな包容力は、演技ではなく、彼自身からにじみ出てくるように感じました。と、久しぶりの大谷直子!凄い!と、目を見張ったのが、最近めきめきの山中崇氏。この人、絶対にいろんなものに欠かせません。

◎◎◎○

「希望の国」

監督 園子温
出演 夏八木勲 大谷直子 村上淳


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
TB返し&コメントありがとうございました (西京極 紫)
2013-01-15 22:25:31
sakuraiさんのお住まいは山形ですから
東日本大震災やそれに伴う原発被害については
身近かつ深刻な問題として捉えておられる事でしょう。
この「希望の国」や「ヒミズ」、
他にもこれから公開されるであろう
3.11関連の映画でも辛い想いを抱かれるのでしょうね。
それでもそれらの問題と向き合っていかないといけない。

我々はそんな危うい社会・環境の中で生きていく…
そんな覚悟が必要なのかもしれません。
返信する
>西京極 紫さま (sakurai)
2013-01-16 15:23:25
今日、「遺体」の予告を見てきて、またまたずしっとキマした。
でも、目をそむけちゃいけないというのも刻んでます。

やはり、津波や地震は本当にとんでもなかったことなんですが、何とかなる、取り戻せるものだと思うのですが、人間の手に余るものを、人間は抱えちゃいけないですよね。
自分たちの子供に、自信を持って、この世を渡せるのか!何をすべきか、何を選ぶべきかということを、考えるのをやめちゃいけない!ということでしょうね。
返信する

コメントを投稿