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シェークスピアの時代

2013年02月27日 | お勉強コーナー
さて、面白いのは、やはりイギリスの歴史。映画にさまざま歴史もんがあれど、古いところから、中世、近世、そして現代にいたるまでを、面白く見せるのはイギリスしかないでしょう。それも、このテューダー朝の時代がなんと言っても秀逸!まるで、後世、物語や映画を楽しくさせるために、こんなに面白い時代を作ったんではないかと思うくらいです。


エリザベス1世



ということで、シェークスピアが活躍した時代を書き記したいと思います。

エリザベス1世が女王に即位したのが1558年、彼女が25歳のとき。姉のメアリ1世が亡くなって、彼女にお鉢が回ってきた。この辺の状況はエリザベス・ゴールデンエイジのときに書いたので、そちらをご参照ください。

今回は映画の登場人物でなぞってみたいと思います。

まずはデビッド・シューリスが印象的だった、ウィリアム・セシル。


デビッド・シューリスのウィリアム・セシル



映画の中では、君主を操り、あまりいい感じではなく描かれていたが、エリザベス女王に対してあくまでも忠実で、一生を女王のために、国のために尽くした人物というのが本当の姿のようだ。エリザベスが女王に就任するには、さまざまな困難と紆余曲折、処刑の直前までいったギリギリの体験までしたが、彼女を支え、生涯女王の治世に尽くした。


ウィリアム・セシル



時には、エリザベスの不興を買ってでもだめなことはだめと言い切る。それが世間には老獪に見え、女王を陰で操り、世の中的には悪役に見えてしまうという点もあるのかも。誰にどう思われようと、自分の信念を貫き、生涯を君主のために生きた・・・と考えれば、忠臣そのものであり、けなす部分などないように思えるが、なぜかよくは描かれない。

今回の物語では、自分が王の外祖父的な立場になって、国政を手中にし、自分の地位をゆるぎないものにしようとした・・・という風に描かれていたが、そんなシチュエーションにしたのは、彼がそれほど高い身分の出身ではなかった!のが理由の一つかもしれない。地味な黒い衣装が印象的。これはプロテスタントで、宗教の強い押し出しはないのだが、逆に強いインパクト与えている。


その息子がロバート・セシル。


ロバート・セシル



背中が曲がっていたというのが彼の特徴で、父・ウィリアムと同様に宰相として政治の中枢にいたが、エリザベスの治世のことはさまざまな書物等に、記述が残っている父ウィリアムと違って、彼に関する記述はとっても少ないらしい。よって、いろんな脚色ができるというのも、また一つの見方。



さて、物語の大きな要素になっているのが、エリザベスの後継者問題だ。エリザベスがなぜに結婚しなかったのか?ということには、さまざまな説がある。物理的な面からは、体に欠陥があって、結婚が不可能だったという説。父・ヘンリ8世の梅毒を受け継ぎ、その後遺症があったといわれる。


ヘンリ8世



梅毒は、西インド諸島特有の風土病だったのが、コロンブスの探検以来、あまたの海賊、冒険家がかの地に渡っていった。そしてもらってきたのがこの病気。あっという間に広がった・・・ということを聞くと、若干頭を抱えたくなる。まず、だれも見たことのない奇病が次々と広がり、わけもわからず罹っていく。始まったのがスペインだったので、最初に就いた名前がスペイン病。それが今度はフランスに広がり、フランス病となり、あっという間にヨーロッパに広がった。

6人の妻と、次々と結婚をしたヘンリ8世がかかったとしても、何らの不思議もない。そして、それが娘のエリザベスに受け継がれた・・・という説なのだが、この場合、父から娘に受け継がれるものなのだろうか?生まれてからうつったのか?医学的なことは不調法なので、この説は真偽は???

政治的な面からいうと、当然、多くの人からのプロポーズがあった。国内の貴族はもとより、外国の王子やら、王やら、大公やら、超有力貴族やら。有名なところでは、姉・メアリの夫だったスペイン王のフェリペ2世(位1556~1598)、のちにフランス王になるアンジュー公アンリ、国内でいえば、恋人として有名なロバート・ダドリー等々。


ジョセフ・ファインズ「恋するシェークスピア」のときのダドリー役



結局、彼女は結婚しなかった。どこかの国の有力者と結婚することによって、国の均衡が崩れる。国内の貴族との婚姻によって、まだ安定していないイギリス国内に、紛争を巻き起こすかもしれない。どれが正しい理由かはわからないが、自分が結婚しないことによって、崇高なイメージを発揮し、国民にバージン・クィーンとして君臨する一つのアイテムだったのかもしれない。

しかし、問題は後継者だ。最終的に、彼女の正式な後継者というのは現れない。映画の話からすると、エリザベスには一体何人の隠し子がいたんだ?みたいに描かれていたが、彼女をあとを継いだものはいない。。。。ということは、やはり隠し子説はないのか・・・。

当然、後継ぎのいない女王の次は一体誰になるか?大きな問題だった。あくまでテューダー朝の血を受け継ぐもの・・・と言ってもこれぞという人がいない。一番の有力候補はスコットランド王のジェームズ6世である。ここは若干わかりにくいので、資料集から系図を引用。


『新詳 世界史図説』(浜島書店)より



系図を見ていただければわかるが、エリザベスの父・ヘンリ8世には姉がいた。マーガレット。マーガレットはスコットランド王・ジェームズ4世に嫁いでいる。その孫がメアリ・ステュアートである。悲運の女王と言われる。彼女にもイギリス王位の継承権があった。エリザベスには後継者がいない。よって、エリザベスが死ねば、メアリが王位につく可能性も十分ある。

そして実行に移してしまったが失敗。メアリ・ステュアートは処刑されてしまった。ということは、その息子のジェームズ6世(1566~1625 スコットランド王位1567~ イギリス王位1603~)は、母の仇のあとを継ぐ。自分の母を処刑した国の王になる・・・ということだ。

これはいうまでもなく紛糾の種になる。いろいろと問題はあったが、国民に愛され、皆に慕われた女王のあとを継ぐのが自分たち(?)が殺したメアリの息子。どんな思いで彼は王につくだろうか?しかし、母のメアリは、ジェームズを産んで間もなくスコットランド王を廃位され、国を追われた。ジェームズは母に会うこともなく、母への思いは薄かったのではないか。


ジェームズ1世



もちろん母を殺されたことを利用しないわけはないが、母を殺した国・・・という憎しみは少なかったと想像する。それよりも、スコットランドの政治は、王が強い力を発揮できるものでもなく、側近による政治、1歳で王になったということは、王に実権がなかったことはすぐにわかる。母も側近にいいようにされ、フランス王と結婚させられたり、帰国すると国内の貴族と結婚させられたりと、王と言っても飾りものにすぎない。

となると、王として実権を持ち、国民に尊敬され、かつイギリス王の最大の魅力は、イギリス国教会の首長になれる!ということだ。イギリス独自の宗教であるイギリス国教会は、かのヘンリ8世が、妻カザリンと離婚したときに出来上がった新しいキリスト教会だ。スコットランド国内の宗教対立に頭を悩ましていたジェームズ1世は、確たるものになりつつあったイギリス国教会に魅力を感じ、その首長になれるということは、何をおいてもありがたいことだ。

そして、今や日の出の勢いのイギリス。もうスペインは凋落している。この国の王になるためには、どんなことでもしたかもしれないのではないか。実際、王になった後は、イギリス宮廷が気に入り、田舎のスコットランドへ足が向くことはなかったらしい。

ジェームズ1世は王になると、カトリックとプロテスタントの排除を始める。そのため、国内のカトリックの連中が王に対する抵抗運動を計画し、ガイ・フォークスが首謀者の一人である火薬陰謀事件を起こす。この事件を題材にしたのが「V・フォー・ヴェンデッダ」という作品。




プロテスタントへの激しい排斥から、イギリスのプロテスタント・ピューリタンたちが、祖国を捨てて、新大陸に渡って行った「ピルグリム・ファーザーズ」も、このジェームズ1世のときのことだ(1620)。


さて、シェークスピアの正体は?だが、いろいろと取りざたをされてきた。一番有力な説が、今回の映画の主人公のオックスフォード伯エドワード・ド・ヴィア。シェークスピアがシェークスピアではない!とか、オックスフォード伯が、この戯曲を書いた張本人だあ!!という説には、まず正解は出ないと思う。無理なこじつけもないでもない。なので、誰がシェークスピアなのか?という論争はえらい方に任せる。


オックスフォードア伯エドワード・ド・ヴィア



素人が下手なこと言ってもしようがないが、私は、ルネサンス時の芸術家見たく、作家集団みたいな形だったんじゃないかなあと思う。シェークスピアの物語の多岐にわたるバラエティの広さとか、下々のこともあれば、王宮、世界、歴史、商売と、とにかくさまざまな題材がある。ということは、いろんな得意分野の人がいろいろといて、分担して書いてたんじゃないかなあと。

一番つまんない説だけど、あたしはそう思う。

映画の中に出てきたシェークスピアの作品は、オックスフォード伯が子供の時の作品という「真夏の夜の夢」、初のご披露となった「ヘンリ5世」、その後は「ジュリアス・シーザー」、「十二夜」、「ロミオとジュリエット」と続く。そして最高傑作と言われる「ハムレット」。そして「リチャード3世」のクライマックスとなる。

ヘンリ5世(位1413~1422)は、百年戦争(1339~1453)のときのイギリスの君主で、フランス軍を壊滅させた英雄的な存在である。王にもさまざまなタイプがいるが、自ら隊を率い、先頭に立って戦いを行い、かつ宿敵を負かした英雄の王さまはそうはいない。その象徴的な王が、ヘンリ5世だ。


ヘンリ5世



対極にあるのが、リチャード3世(位1483~1485)か。シェークスピアの登場人物の中でもかなりの奸物として描かれている君主である。リチャードは百年戦争のあとのイギリスの貴族のサバイバル戦争と言われるバラ戦争(1455~1485)の末期に登場する。イギリス国内で、ヨーク家とランカスター家にわかれて、血みどろの戦争となったが、末期になると、お互いの家の中でもさえも、争いが絶えなかった。リチャードの人気のない原因は、幼い王位継承者をだまし打ち、己が王位に就いた!というものだ。そして、最終的にこの戦いを終わらせたヘンリ・テューダーによって、殺害される。


リチャード3世



なんといってもテューダー朝の創始者、ヘンリの宿敵であったリチャードには。だれよりも悪になってもらわなくては困る。本当にリチャード3世が歴史に残る奸物であったかどうかは謎が残るが、歴史は勝者のもの。それをことさらに強く感じさせてくれる人物だ。

印象的だったのは、イアン・マッケランが演じた映画「リチャード3世」!!これでもか!というくらいに憎々しげな王さまを、嬉々として演じていたのが忘れられない。鈎十字で有名な独裁者をもじった作品は、なかなか見応えがあった。


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