さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

諸書雑記

2022年04月03日 | 
 この二日ほどは諸書をバラ読みすることに終始していたのだが、そのきっかけとなる元気をくれたのが、雑誌「ブルータス」の特集で村上春樹があげていたジャック・ロンドンの自伝的小説『マーティン・イーデン』(辻井栄滋訳2018年白水社刊)だった。中でも目も回るような忙しさで働く洗濯屋の労働場面の描写がすばらしい。こちらは、おっ、来た、来たと思いながら読んだ。貧苦にあえぎながら暮らしている近親者の姿の描写もすぐれている。そのあとに先日言及したジョージ・オーウェルを手に取ったのだったが、イギリスの文学を読むと階層・階級の区別がはっきりしているイギリス社会の狭苦しさが強く意識される。こちらも貧苦にあえぐ時代遅れの小商人の生態を容赦なく描いている。しかし、作者が一番書きたかったのは、十六歳までの少年期の思い出、特に魚釣りについての蘊蓄を傾けるあたりだろうと思う。

 何とか時代全体への見取図を与えてくれるような書物はないかと、書店にでかけて中尾茂夫『世界マネーの内幕』(2022年3月ちくま新書)を手に取った。終章に「松本清張は何を考えていたか」とあるあたり、通常の経済解説書とはまるで違う感触を得た。この国にもこういう真の愛郷精神を持った人がいるのは心強い。

 あわせて「中国とどう向き合うか」という特集の「世界」を買ってみた。喫緊のウクライナ情勢についての大串敦の一文が、2月24日の開戦直前の文章ながらよく事態の経過を整理してまとめていた。あまり成算が得られないのにロシアがどうして大規模な戦争にまでふみこんでいくのか、軍事と経済とが遊離しているというロシアの不思議な実態を指摘している。周知のようにウクライナをナトーに加盟させないことが第一の目的であるだろうことは明らかであるが、そこから先はロシアの歴史的な被害者意識が遠因となっている。さらにプーチンのロシアとウクライナを一体とみなす政治思想が根本にあることはすでに多くの人たちの指摘している通りである。



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