さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

竹田厳道『観る聴く 一枚の絵対話集』

2020年07月18日 | 美術・絵画
 ネットにウィキペディアという百科事典様の検索システムがあって、いろいろなことが説明されているので、けっこう便利だし、私も常々お世話になっている。けれども、たとえば本書の刊行者である竹田厳道さんの項目はないし、ほかに例をあげると、一時期書家の比田井天来という名前を検索しても何も出て来ないことがあった。その分野の人が気がつかないと、いつまで経っても項目とならないのがウィキペディアである。私は画商に対する評価を美術史の問題としてして取り上げる人がいていいと思う。それは日本の戦後の文化史の問題ともなるだろう。

 私は『一枚の絵』という雑誌を店頭で買ったことがない。けれども、この対話集には、いろいろなことを教えてもらった。ところどころ噛み合っていないやりとりもあるのだけれども、この本には、新聞社出身で絵画の割賦販売を成功させたこの人でなければ引き出せなかったような発言がたくさん見えるのである。画家の本音のようなものを、実に上手に引き出している。本書によって、私の知らなかった多くの画家と出会うことができたし、敬意を覚える芸術家を発見することもできた。実に勉強になる本だった。

 竹田厳道さんのいいところは、自分の戦争体験を踏まえて、懇意の画家に沖縄平和祈念館の絵を書かせる仲介をした仕事にもあらわれている。すでに健康を害しながら祈念館のテープカットに立ち会っている写真を「一枚の絵」のバックナンバーで確認した。確かにみすず書房で本を出してもらえたりはしないだろうが、もう少し顕彰されたって良さそうなものだ。

 美術の大衆化との接点として、最近私が興味を持ったのが、東郷青児がデパートに大きな壁画をかいたことだ。あとは戦後のビヤホールの開業第一号となったニュートーキョーが有名な画家たちに絵皿を描かせて、それを景品としている。ついでに興味深い材料を並べてみると、原精一が週刊誌にのった裸婦群像写真の振り付けをしているものがある。これなどは実におもしろい。

※翌日に一部記事を訂正し、追記しました。
 

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