時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(四百二十四)

2009-10-19 23:52:36 | 蒲殿春秋
その頃義仲は都の中にいた。
彼の軍勢が鎌倉勢そして行家を防いでいる間に後白河法皇を奉じて北陸に下る、
その策を何とか実行せんと義仲はあきらめないで工作をしていた。

法皇は「赤痢」を口実に御所から動こうとはしない。
義仲の後ろ盾となっていた元関白基房にも働きかけを願ったが基房も積極的には動いてはくれない。
都において義仲はまったく孤立無援の状態である。
だが、義仲はあきらめない。
何としても法皇をつれて北陸にいく。
その為にはいかなる方策も尽くしてみる。

その方策の一つとして義仲は、
都に上ってから懇意となった院の女房を通じて後白河法皇に働きかけようとしていた。

自軍が敵と戦っているその頃義仲はその女房と対面していた。
義仲はその女房とは深い仲になっていた。
その女房も院の動座に関しては色よい返事をしない。
しかし、義仲も食い下がっている。
そうして問答しているうちにいつの間にか時間が通り過ぎていっていた。

そこへ最近義仲に仕えるようになっていた越後中太家光という者が息をせききって
義仲のもとにやってきた。

「殿、鎌倉の軍勢が間もなく都に押し寄せまする。」
中太家光は大声で怒鳴った。

義仲はその言葉を間に受けなかった。

いくら彼の軍勢が少数になったとはいえそんなに早く防衛線を突破されるとは思っていなかった。
義仲は女房との話を続けている。

「殿、宇治の守りが破られて九郎率いる軍勢がもう都の直ぐ側まで迫っております。」
中太家光は続ける。

だが義仲はまだ女房との会話をやめない。

今度は物騒な音が義仲の耳に入った。
先ほどから声が日々いいていた方向を見やると中太家光が血まみれになって倒れていた。
中太家光は自害して果てたのである。

その様子を覗き見た院の女房は卒倒した。

ここにきて義仲は事態が容易ならざるところまで来ていることをようやく悟る。

義仲は急いで甲冑に身を固め、手元に残ったわずかばかりの軍勢を引きつれ都大路へと飛び出した。

都に住まう人々は家の中にこもっているのか大路はひっそりとしている。
義仲は、最後の望みをかけて院御所に向かう。
だが、院御所は固く門が閉ざされたままである。
そうしているうちに、騎馬の蹄の音と、鎧がこすれあう独特の音が聞こえてきた。
都の南の方からである。
中太家光のいっていた通り、都の南、宇治から敵がやってきたらしい。

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