時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(四百二十一)

2009-10-12 06:06:52 | 蒲殿春秋
一方馬筏を作って渡河しようとしている畠山軍団の中では奇妙は事が起きていた。
畠山重忠は馬を敵に射られ、仕方なく自力で泳いだり歩いたりしながら河を渡っていた。
名だたる豪力で知られる重忠も甲冑を着し太刀弓矢を装備した姿で渡河するのはさすがに体にこたえる。
それでもけんめいに進み間もなく岸に上がろうとしたとき体が急に重くなった。
何者かが重忠にしがみついてきたのである。重忠は重さを感じるところに目をやった。
見ると重忠の烏帽子大串重親がひしと重忠にしがみついている。
「どうした。」
と重忠が問えば、
「馬が力尽きて河に流されました。それで私はここまで流されました。
ここで畠山殿を見つけて、しがみついたのであります。」
と重親は答える。
「まったく世話が焼ける人だ、そなたは。仕方あるまい、これも烏帽子親の役目。」
そういうと重忠は怪力を発揮して、重親を岸まで放り投げた。
鎧に身を固めた重親は川岸に叩きつけられて一瞬痛みを感じたものの、すぐに立ち上がった。

「この渡河の先陣は、武蔵国住人大串重親なり。」
と叫んだ。

奇妙な先陣である。

先陣の手助けをすることになってしまった畠山重忠は苦笑いをしながらみずからも岸に上がる。
その後畠山重忠率いる一団は次々と岸に上る。

かくて、義経率いる鎌倉勢搦手軍は続々と木曽勢が待ち構える対岸へと上陸した。
鎌倉勢は上陸すると瞬く間に木曽勢力に襲い掛かる。
大手に比べると大幅に人数の少ない搦手であるが、それでも宇治に待機していた木曽勢に比べると
はるかに多い兵力である。
木曽勢力はたいした抵抗もできずに鎌倉勢に蹴散らされた。

鎌倉搦手軍は一路都を目指す。

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