時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(三百八十八)

2009-05-26 06:10:54 | 蒲殿春秋
義仲の勢いは止まらない。

寿永二年(1183年)十一月二十九日摂政師家の名において人事の刷新が行なわれた。
院近臣や院に近いと目される武士達が大量に解官(官職を追放すること)されたのである。
平清盛が引き起こした治承三年の政変ので行なわれた人数を上回る数の解官であった。

ついで摂関家の八十箇所の荘園の管理が義仲の手によってまかなわれることになる。
荘園の管理に武力が必要な前摂政入道基房と兵糧や物資の不足に悩む義仲の利害が一致した結果である。

ついで義仲は自らの権威を高めるべきことを行わんと図った。
義仲は基房の娘ーつまり現摂政師家の姉の婿になりたいと基房に申し込んだのである。
この申し出に基房は困惑した。
あまりの身分違いの縁談だからである。
本来ならば帝の妃になってもおかしくない娘である。
それがついこの前まで無位無官だった男の妻になるなど当時の摂関家としては考えられない。
少なくとも代々公卿の家を勤める家の男でなくては摂関家の娘の婿にはふさわしくない。

だが、現在の基房にとって義仲との提携は必要不可欠である。
基房は返答の延期を求めてはいるが、あからさまな拒絶はしていない。

この好感触に義仲は満足している。

この縁談が成立すれば鎌倉の頼朝が有する官位や都との人脈で示しているその貴種性を義仲は凌駕することができる。
頼朝より義仲の方が上位者であることを示すことができるのである。
たとえ頼朝がその姉を通じて今上の帝の縁戚の端につらなっている事実があるとしても・・・

義仲は東の頼朝に向かって心の中で勝ち誇った叫びをあげていた。
━━ 頼朝よ。そなたは無位無官で小豪族の北条とやらの娘を御台所として崇めさせているようだが
 お前にはその程度の女が釣り合いよ。
 わしは、摂政殿下の姉君の婿になる。
 名も知れぬ伊豆の田舎の女の婿と摂政殿下の婿君ではえらい身分違いだな。
 所詮お前は流人あがりの身の上だ。流人の時に拾ってくれた女を後生大事にすることだな。

勢いにのる義仲は奥州藤原氏と示し合わせて頼朝を討つための支度を急ごうとした。
だがこの先の見えぬ戦乱の世は義仲が思う通りには動かなかったのである。

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