時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(二百四十七)

2008-04-25 05:41:23 | 蒲殿春秋
ここのところ駿河、遠江に対する頼朝の支配力が徐々に浸透してきている。
一条忠頼や安田義定といったかの地の支配者の言より頼朝の命令をあからさまに重んじるものも出てきている。
が、そのことは、かの地を支配している一条忠頼や安田義定といった甲斐源氏に不快感や警戒感を与えてきているようである。

もし、頼朝の東海道進出に対抗する措置として頼朝のもとに安田義定が伏見広綱を送り込んで頼朝ー北条時政ー牧宗親という駿河を巡る婚姻の輪を乱し、頼朝の駿河、遠江への口出しを阻もうとしていうのならば・・・
この考えは少々穿ちすぎかも知れないが・・・

「もし、背後の意向が働いていたとするならば、そのものの意向にわしはまんまと乗ってしまったことになる。」
頼朝がふと漏らした一言に景時が答えた。
「今ならまだ間に合いまする。一刻も早く伏見殿を追放なさるべきです。
このまま伏見殿を重用しつづけておりましたら、伏見殿を快く思わぬ北条殿や牧三郎殿はますます臍をまげられまする。」
「しかし、その通りだろうが、伏見も役にたっておる。」
「役に立つ右筆(代筆人)は探せば他におりましょう。」
「いや、右筆ということではなく、伏見は遠江の住人とわしとの間のとりもちをしてくれておる。
確かに安田の息はかかっておろうが、現にわしの役にたっていることは事実なのじゃ。」
「それならば、伏見殿に代わってもっと役に立つ方が他におられます。」
「それは?」
「蒲殿です。殿の異母弟君です。
蒲殿は遠江国のお生まれですし、伊勢の御領蒲御厨に奉仕されておりました。
遠江にも知己が多いと聞いております。
伏見殿がおられずとも、蒲殿に遠江国のものとの仲立ちをしていただければよろしいのです。」

景時のこの意見に頼朝は疑問を投げかける。
「しかし、六郎は安田とこれまで共に歩んできた。安田とのつながりは伏見にまさるともおとらぬと思うが。」
治承四年の各地の反平家の挙兵の際遠江にいた範頼は甲斐へ逃げ込み、
それ以来甲斐源氏の一人安田義定と行動を共にしてきている。
安田義定の遠江進出にも範頼は一役買っている。

その主の疑問に景時は答える。
「ですから、今よりも蒲殿を鎌倉方に強く引き寄せるのです。
もっとも蒲殿と安田殿の付き合いはそう簡単に切れるものではございませぬが。
しかし今、殿は良い手を打とうとなされておりまする。」

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