時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(二百四十六)

2008-04-23 05:30:05 | 蒲殿春秋
その日の夜今度は梶原景時が頼朝のもとに現れた。
景時の姿を認めると頼朝は疲れた顔を彼に向けた。

「殿、そろそろ北条殿と和解せねばなりませぬなあ。」
と景時は主に語りかけた。
「わかっている、わかっているが。」
と、頼朝は浮かぬ顔で答える。

「まず、北条殿が何を望んでおられるかを考えなくてはなりませんなあ。」
「望んでいること、とは。」
「それがし色々と思案してみました。
一番良いのは亀の前さまのもとへ通うのをおやめになることと存知まするが・・・」
「それは無理じゃ」
と頼朝は即座に答えた。
「でしょうな。」
と景時は苦笑する。

「されど殿が御台さまと若君を重んじておられることを示す必要がございましょう。北条殿の今回の一件は御台さまと若君さまの先行きを心配してという一面がございまするゆえ。」
「そうだ、な。」
頼朝は神妙に答える。
「その方策はおいおい考えるといたしまして、それより前にしなければならぬことがございまする。」
「せねばならぬこととは?」
「伏見殿を遠江にお返しになることです。」
「何?」
頼朝は自分の腹心の顔を凝視した。
景時は続ける。
「伏見殿はここの所、殿と御台さまの間を引き裂かれようとされているように見受けられまする。」
考えてみれば、兄義平の未亡人を頼朝の正室として迎えるように画策したり、亀の前との間を熱心にとりもったりというようなことを広綱は行なっている。

「伏見殿は牧三郎(宗親)殿を敵視しております。
伏見殿は遠江の住人。牧三郎殿は駿河の住人でございまする。
それがしの憶測にございまするが、この二人の間になにかしらの確執があるように思えてなりませぬ。
伏見殿にとりまして、牧三郎殿が殿の御縁戚として駿河でお力をもっているのを疎ましくおもわれているやもしれませぬ。
それゆえに殿と御台さまの仲を裂き、御台さまのご実家の北条殿や縁戚の牧三郎殿の力を削ごうとなされているとも・・・」
景時は主をじっと見上げて言葉を続けた。
「そして、伏見殿の背後にどなたかの意向が含まれているやも知れませぬ。」
「背後とは?」
「伏見殿は確か遠江を差配する安田殿のご推挙で殿の元は参られましたと聞き及んでおりまする。」
景時は主の目から顔を背けることなく言葉を続けた。

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