症状、予防、経過と治療… 新型コロナウイルス感染症
新型コロナウイルス感染症について様々なことが分かってきました。
現時点で分かっていることについてまとめています
これまでにヒトに感染するコロナウイルスは4種類知られており、かぜの原因の10~15%を占める原因ウイルスとして知られていました。
またイヌやネコ、ブタなど動物に感染するコロナウイルスも存在します。
2002年中国広東省に端を発したSARS(重症急性呼吸器症候群)は、コウモリ(あるいはハクビシン)のコロナウイルスがヒトに感染し、ヒト-ヒト感染を起こすことで8000人を超える感染者を出しました。
また2012年には中東でMERS(中東呼吸器症候群)が報告され、ヒトコブラクダからヒトに感染する感染症であることが分かりました。
そして2019年12月末から中国の湖北省武漢市で発生した原因不明の肺炎は、新型のコロナウイルス(SARS-CoV-2)が原因であることが判明しました。
新型コロナウイルスの宿主動物は2020年5月時点ではまだ分かっていません。しかし、新型コロナウイルスはコウモリの持つコロナウイルスに遺伝子学的に近縁であることが分かっています。コウモリが新型コロナウイルスの元々の宿主である可能性は高いと考えられますが、コウモリから直接ヒトに感染したのか、あるいは他の中間宿主が存在し、その中間宿主からの感染が起こったのかは不明です。
新型コロナウイルスは動物から人に感染し、さらに人から人に感染しうることが分かっています。
1人の感染者から2~3.5人くらいに感染すると考えられています。
これはインフルエンザやSARSよりは低く、エボラ出血熱よりは高い数値です。
中国で検出された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)103株を解析したところ2つの異なるタイプがあり、7割はL型、3割はS型と呼ばれる株であることが分かっています。
中国での流行早期ではL型が多く、武漢市以外の地域ではS型が多いようですが、この違いによって臨床症状や感染性が異なるかどうかは現時点では不明です。
中国の湖北省武漢市から流行が始まりましたが、今では世界中で流行が広がっています。
2020年1月から2月にかけての中国における第1波の流行を経て、現在はヨーロッパ、アメリカを中心とした第2波の流行が起こっており、第2波は流行のピークから横ばい~やや減少の傾向にあります。
日本国内では、2020年1月15日に国内最初の症例が報告されて以降、5月1日現在で14281例(クルーズ船での感染者712人を含む)の感染者が報告されています。
4月7日に緊急事態宣言が出されてからは新規患者報告数は減少傾向にあります。
都道府県ごとの感染者数では、東京都の4114人が最多であり、大阪1580人、神奈川県1002人、福岡県639人、愛知県480人、北海道721人と都市部を中心に流行がみられています。
新型コロナウイルス感染症の症状は?
<figure class="image imgC"> <figcaption>新型コロナウイルス感染症の症状の頻度(中国での1099例の報告より DOI: 10.1056/NEJMoa2002032)</figcaption> </figure>感染してから約4日(最大14日)後に風邪のような症状が出現します。
風邪のような症状とは、微熱を含む発熱、咳、ノドの痛みなどです。
その他にも頭痛、だるさ、関節痛・筋肉痛などの症状がみられることがあります。
このように、新型コロナウイルス感染症は風邪やインフルエンザによく似ていますが、症状が続く期間がそれらと比べて長いという特徴があります。
特に重症化する事例では、発症から1週間前後で肺炎の症状(咳・痰・呼吸困難など)が強くなってくることが分かってきました。
つまり、発症してから1週間程度は風邪のような軽微な症状が続き、約2割弱と考えられる重症化する人はそこから徐々に悪化して入院に至るというわけです。
もう一つの特徴として、嗅覚障害・味覚障害を訴える患者さんが多いことも分かってきました。
イタリアからの報告によると新型コロナ患者59人のうち、20人(33.9%)で嗅覚異常または味覚異常がみられたとのことです。
特に若年者、女性ではこれらの症状がみられる頻度が高いようです。
ただの風邪や副鼻腔炎、花粉症が原因で嗅覚異常・味覚障害が起きることもあるので「嗅覚障害・味覚障害=新型コロナ」ではありませんが、だらだらと続く風邪症状に加えてこれらの症状があれば新型コロナの可能性は高くなるでしょう。
<figure class="image imgC"> <figcaption>新型コロナウイルス感染症の典型的な経過(筆者作成)</figcaption> </figure>中国の4万人の感染者の解析によれば、患者の8割は重症化に至らず治癒するようです。
数日~1週間以降に2割弱の患者では、肺炎の症状が増強し入院に至ることがあります。
約5%の症例で集中治療が必要になりICUに入室し、2-3%の事例で致命的になりうるとされています。
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感染しても無症状の人が一定数いることも分かっています。
正確な頻度は不明ですが、ダイアモンド・プリンセス号で診断された619人のうち約半分は診断時に無症状でした。しかし、診断後に症状が出現する人もいるため診断時に無症状であっても慎重な経過観察が必要です。
新型コロナウイルス感染症のその他の症状
新型コロナウイルス感染症患者の一部で脳梗塞を発症する事例が報告されています(DOI: 10.1056/NEJMc2009787)。
新型コロナ患者では凝固系の異常(血液が固まりやすくなる病態)や血管内皮障害が起こることが分かっており、これにより深部静脈血栓症や脳梗塞などが起こるものと推測されています。
また新型コロナウイルスは心血管系にも影響を及ぼし、急性冠症候群(ACS)、心筋炎、不整脈(心房細動など)を引き起こすことがあります。
小児では川崎病(発熱、皮疹、眼球結膜充血、いちご舌など)のような症状がみられる事例が海外で報告されています(doi: 10.1542/hpeds.2020-0123)。
新型コロナウイルス感染症の重症度や致命率は?
5月1日時点で世界全体の致死率は7.0%となっています。
中国で流行が始まった当初は2~3%で推移していましたが、流行がヨーロッパに広がってから致死率が高くなってきています。
また国別に見ると、日本や韓国では3%未満と低い致死率を維持していますが、イタリアやスペインでは10%を超えています。
この致死率の違いは、
・感染者のうち高齢者の占める割合の違い
・軽症者や無症候性感染者の占める割合の違い
・イタリアやスペインでは患者数の爆発的増加によって十分な医療が提供できていない
などによるものと考えられます。
これまでに報告されている死亡者は持病を持つ人や高齢者に多いことが分かっています。
<figure class="image imgC"> <figcaption>基礎疾患と致命率(中国CDCのデータより筆者作成)</figcaption> </figure>また、糖尿病、慢性呼吸器疾患、心血管疾患、高血圧、がんなどの持病を持つ人では、持病のない人よりも致死率が高いと報告されています。
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新型コロナウイルスの診断は?
新型コロナウイルス感染症患者は高い頻度で肺炎を起こしています。
そのため胸部レントゲンを撮影して肺炎の有無を確認しますが、肺炎のある患者でも胸部レントゲンでは見逃すことがあります。
肺炎の有無を正確に確認するためにはCT検査を行います。新型コロナウイルス感染症では左右の肺の外側に影が出るのが特徴的とされます。
<figure class="image imgC"> <figcaption>新型コロナウイルス感染症患者の胸部レントゲン(左)と胸部CT(右)(患者さんの許可を得て掲載しています)</figcaption> </figure>新型コロナウイルス感染症の確定診断にはPCR検査が用いられています。
PCR検査とは、ウイルスの遺伝子を検出する検査です。
新型コロナウイルス感染症の患者ではノドや痰の中に新型コロナウイルスが存在するため、鼻咽頭を拭ったり痰を採取したりして、その検体の中のウイルスの有無を検査します。
ウイルスの遺伝子が少数であっても検出できるため、一般的に感染症の検査の中では検出力の高い検査とされます。
しかし、新型コロナウイルス感染症の患者でも鼻咽頭を拭った検体での陽性率は約6割とされています。つまり10回検査をしても4回は陰性と出てしまいます(偽陰性)。
また、全く症状がない人や、確定患者との接触歴や海外渡航歴のない人など、元々新型コロナウイルス感染症が疑わしくない人にPCR検査をしても偽陽性(本当は新型コロナウイルス感染症ではないのに陽性と出てしまうこと)が多くなります。
PCR検査は絶対的なものではなく、検査の使い方をよく吟味し、結果を正しく解釈できる必要があります。
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新型コロナウイルスの治療は?
<figure class="image imgC"> <figcaption>新型コロナウイルス感染症の治療薬候補(筆者作成)</figcaption> </figure>新型コロナウイルス感染症に有効な薬はまだありません。
レムデシビル、ロピナビル/リトナビル(カレトラ)、ファビピラビル(アビガン)、ヒドロキシクロロキン(プラケニル)などが治療薬の候補として、臨床研究や適応外使用という形で国内外で使用されていますが、明らかな有効性が確認されたものはまだありません。
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現時点で有効なワクチンはありません。
咳やくしゃみなどの飛沫から感染することから、これらの症状のある人は周りの人にうつさないようにマスクの着用など咳エチケットを心がけましょう。
また手など触ったところからウイルスが広がり感染する可能性もあるため、こまめな手洗いを行うようにしましょう。
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新型コロナウイルス感染症は、「密閉・密集・密接」の3要素を持つ空間で広がりやすいことも分かっています。
このような「3密空間」にいる感染者は、いない感染者よりも18.7倍も他の人へ感染させやすいとのことです。
老若男女、全ての人が「3密空間」を避けることが新型コロナ対策では重要です。
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