華語り

心に華を!!

紅葉(金沢市兼六園)

2005-09-12 10:05:35 | 花だより
おなじえをわきてこのはのうつろふは西こそ秋のはじめなりけれ
                       藤原かちおむ(古今和歌集)

兼六園内の紅葉の様子です。一部色づき初めていました。
全体が紅葉するのも間もなくのことと思われます。

 

《歌について》

『古今和歌集』の秋歌下に載せられた歌。詞書に 

貞観御時、綾綺殿のまえに梅の木ありけり。西の方にさせりける枝のもみじはじめたりけるを、 うへにさぶらふをのこどものよみけるついでによめる

注)貞観の御代・・・清和天皇のころの年代(858~877)
 綾綺殿・・・内裏の御殿のひとつ。清和天皇の御座所であった。

 とあります。作者「藤原かちおむ」という人物については詳細はわかりません。(どなたかご存知の方いらっしゃるでしょうか?)

同じ梅の木でありながら、一部だけ紅葉が始まっている、とちょうど兼六園のもみじのような光景を詠んだものです。
しかも西のほうの枝から紅葉しているという・・・

中国の五行説では東西南北をそれぞれ、東=春、南=夏、西=秋、北=冬というように季節にあてています。西は秋を表す方角であり、西側の枝がまず色づき始めたというのはそちらの方向から秋がやってきたということで、全く理にかなっていると、わずかな紅葉を五行説と結びつけて知的に詠みあげています。

こういう発想は、ややもすると理屈っぽくて嫌味になりがちですが、「西こそ秋のはじめなりけれ」と、さらりと詠みあげてしまうことで理屈っぽさを消して、秋の気配の情緒をよりいっそう感じることが出来る歌のように思います。

 

(撮影:2004年10月24日)


十月桜(金沢市兼六園)

2005-09-12 09:59:48 | 花だより

狂い咲きではありません。「十月桜」といって秋から冬にかけて咲く桜です。

春の桜のように木にいっぱい花を咲かせるわけではないので、「十月桜」と書いた立て札がなければ見のがしてしまいそうでした。

絢爛たる桜の花を連想していくと、とても儚い感じがしますが、小春日和に薄紅の小さな花をつけている姿はけなげでもあります。

(2004/10/25)


野分のまたの日

2005-09-12 09:56:32 | 花だより

野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ。立蔀・透垣などの伏しなみたるに、前裁ども心ぐるしげなり。おほきなる木ども倒れ、枝などは吹き折られたるだに惜しきに、萩・女郎花などのうへに、よろぼひ這い伏せる、いと思はずなり。格子の壺などに、さときはをことさらにしたらむやうに、こまごまと吹き入れたるこそ、荒かりつる風のしわざともおぼえね。(枕草子 163段)

 

夕べの嵐が嘘のように静まり返った朝。 雨と風で木々の葉が吹きちぎられ、道路のあちこちに吹き溜まりを作っています。

台風の季節になると必ず思い出すのが、冒頭に上げた『枕草子』の一段です。
「おほきなる木ども倒れ」とあるので、かなり大型の野分が去っていったものと推察できます。
おどろおどろしい嵐の最中はどれほどか恐ろしい思いをしたことでしょう。
一夜明けて無残になった前裁に「あはれ」を感じるというのは、ようやく嵐が去って行ったことに対する安堵の気持ちがにじみ出ているようです。

今回の台風も、大きな爪あとをあちこちに残して去っていきました。それを思うと、『枕草子』にあるように、「いみじうあはれにをかしけれ」という気分にはとてもなれそうにありませんが、嵐の後の静まり返った空間を、こんな風に見つめることも素敵なことかもしれません。

(2005/10/21)


金木犀(富山県高岡市)

2005-09-12 09:49:21 | 花だより

 

木犀のかをりほのかに漂ふを見まはせど秋の光のみなり                                                                           (窪田空穂)

富山県高岡市にある前田利長の墓所に咲いていた金木犀です。

 お墓参りを終えてふと目をやると、金木犀の花が・・・

そばに近づくと、あの独特の甘い芳香が漂いましたが、雨上がりだったせいか、それほど香り立つという風でもありませんでした。

日も暮れかけて、あたりに夕闇が迫る頃行ったので、フラッシュをたいて撮影しましたが、いまいち綺麗に撮れませんでした(泣)。

香りをお届けできないのが残念です。

 

《歌について》

「木犀」というのは金木犀や銀木犀などの総称。

道を歩いていてふっとその芳香が漂ってくると、どこで咲いているんだろうと、思わずその花の存在を探してしまいます。その存在を探さずにいられないといった方がいいでしょうか。

おそらく作者も、道を歩いている途中で、どこからか香ってきた木犀の香りに足が止まり、辺りを見回してみたのでしょう。でも、どこにも花の姿はなく、あるのはただ、秋の穏やかな陽だまりだけ・・・。

あるいは木犀が「秋の光」そのものだったのでしょうか・・・。

柔らかな光に包まれた穏やかな秋の日のひとコマを感じさせる歌です。

  (2004年10月3日撮影)

 


女郎花(富山県高岡市 万葉歴史館)

2005-09-11 22:42:44 | 花だより

手に取れば袖さへにほふをみなへしこの白露に散らまく惜しも                                                   (万葉集)

高岡市にある万葉歴史館の庭に咲いていた女郎花です。

万葉歴史館では、万葉集にちなんだ草木が、季節ごとに植えられていて、女郎花はもちろん秋の庭に。秋の庭には他に、萩やフジバカマ、かわらなでしこなど、秋を代表する草花が植えられています。春の庭などは時期になるととても華やかなのでしょうが、秋の庭は華やかさはないものの、静寂にあふれた雰囲気があります。それはそれで、風情があって・・・

 この女郎花はまだ咲ききっていなくて、半ばつぼみの状態。もう少し、花が開くと、黄色がもっと鮮やかに映ることでしょう。

 金沢から高岡へ向かう途中、倶利伽羅峠のバイパスの両側に、黄色い花が群れて咲いていました。今思うと女郎花の群生だったのかな、と。

 女郎花も秋を代表する花のひとつで、古来からたくさんの歌に詠まれてきました。

万葉歴史館の女郎花ということで、万葉集から一首選んでみました。

 おみなえしは、手にとってみると、ほのかにその香りが袖に移ってくる。その香りをただむやみに、花に置かれた白露に散らしてしまうのは、なんとも惜しいことだ。

 女郎花のほのかな香りが、ただ、露に溶けていってしまうのを惜しんでいます。誰か大切な人にその香りを楽しんでもらいたい、そんな思いが伝わってくるようでもあります。

  

《おまけ》

兼六園では白萩を写してきましたが、桃色の萩も咲いていたので、写してきました。

高岡市万葉歴史館(公式サイト)

(2004/10/04)


露草

2005-09-11 22:37:17 | 花だより

朝(あした)咲き夕(ゆうべ)は消ぬる月草の消ぬべき恋を我はするかも                                                       (万葉集)

草むらにちょこんと咲いていた露草。

自生しているものは、惜しげもなく刈り取られてしまう運命にありますが、そういう運命を知ってか知らずか、咲いている様子はけなげでもあります。

 「月草」は露草の古い言い方。「鴨頭草」とも表記されます。

この花は、すぐにしおれて色が変わってしまう。また、古来、花汁は染料として用いられたそうですが、摺りつけた藍色は色落ちしやすく、人の心の移ろいやすいことの例えに使われたり、「月草の」は、「うつし心」などにかかる枕詞としても使われます。

 朝に咲いても夕方にはしおれてしまう月草のような儚い恋を、思いがけずに私もすることになってしまったことだよ。

 移ろいやすい月草のようなはかない恋に、はからずも身を置くことになってしまった作者の恋の相手とは、一体どんな人だったのでしょう。

(2005/10/01)


秋桜(金沢市某所)

2005-09-11 22:33:55 | 花だより

コスモスの花の向き向き朝の雨(中村汀女)

夜中のうちに台風は去って行ったようですが、風が時折強く吹いています。

この時期はやっぱりコスモスだよなあ、と思っていたら、近所の空き地にコスモスが咲いているのを発見。台風の余韻がまだ残っていましたが、写してきました。

風のせいで花があちこち向いてしまい、風がおさまるのを待っているうちに、デジカメの電池がなくなりかけて・・・

なんとか「風に揺らぐ秋桜」を撮ることが出来ました(^^;)

 中村汀女の句は、朝降った雨にうたれたせいで、コスモスがあちこち向いて咲いている、そんなさまを詠んだもの。もっとも台風の雨ではないのでしょうが、今日の情景にひどくぴったりきたので、取り上げてみました。

(2004/09/30)


萩(兼六園 石川県金沢市)

2005-09-11 22:31:05 | 花だより
しぐれつる雲居のかりの翅よりこぼれてむすぶ萩のうは露                             (玄旨法印 『衆妙集』より)

土・日は石川県民は無料で入園できるので、昨日久しぶりに兼六園に行ってきました。

萩の季節は終わりかけていましたが、かろうじて時雨亭の近くで咲き残っている萩がありましたので、撮影してきました。

 花の一つひとつは小さくて地味な感じではありますが、それが群れて一株に咲くさまは圧巻です。風に吹かれて枝が揺れている様子などは、秋の訪れをそれとなく伝えてくれるようです。

 

 《歌について》

萩は秋の七草に数えられている、秋を代表する花のひとつとして、古来からたくさんの歌に詠まれてきました。

鹿と萩、露と萩、雁と萩、といった秋を象徴する事物と組み合わせて詠まれることが多く、先にあげた歌でも「かり」「露」とともに歌われています。

 時雨れていた空を飛ぶ雁の翅からこぼれ落ちて、そのしずくが、萩の上に露となって結んでいることだよ。

 という、意訳するまでもなく、萩の上に置かれた露の情景を詠んだ歌です。

「雲居のかり」はただ単に雲の上を飛ぶ雁ではなく、『源氏物語』を連想させて、風雅な趣を漂わせてもいます。

  作者の玄旨法印は、戦国時代の武将、細川幽斎(藤孝)(1534~1610)のこと。織田信長や豊臣秀吉のもとで、数々の戦に参戦した武人であり、一方で和歌や連歌のたしなみもあった人です。古今伝授を授けられており、関ヶ原の合戦で幽斎の居城が西軍に囲まれた時、幽斎の歌人としての才能を惜しんだ朝廷が、勅使を派遣してその囲みを解かせた事もあったほど、歌人としての才能にあふれた人物でした。

関ヶ原の西軍派の私が、東軍の幽斎に心惹かれるのは、直江兼続や前田慶次らとも交流があったことに加えて、武一編倒でない、優なる部分を持ち合わせているためでしょう。

 

 《おまけ》

何の実かはわかりませんが、赤い可愛らしい実がなっている木がありました。

瓢池にいた鷺

兼六園(公式サイト)

(2006/09/26)


曼珠沙華(彼岸花)  春日山林泉寺(新潟県上越市)

2005-09-11 22:22:39 | 花だより

道の辺の壹師(いちし)の花のいちしろく人皆知りぬ我が恋妻は                                  (柿本人麻呂  万葉集)

本宅「春雁抄」のトップページにしばらく飾っておいた春日山林泉寺(新潟県上越市)の曼珠沙華(彼岸花)です。

ちょうどお彼岸の時期に咲くことから、「彼岸花」とも呼ばれていますが、私は「曼珠沙華」という呼び方が好きです。

花の形態が、四方八方に張った蜘蛛の糸のようでもあり、燃え盛る火焔のようでもあり、どこか異界の花を思わせる雰囲気があります。そんな印象が「曼珠沙華」という語の響きにぴったり来るように感じるからです。

その独特の形態ゆえか、お彼岸という異界との接触のある時期に咲くためか、この花にはいろいろな異名があります。

   カブレバナ、ホトケバナ、狐花、毒花、死人花、地獄花・・・

花にとってはあまり嬉しくない名称ばかりですが、花の印象を言い得て妙な名称であるように思われます。

 

「曼珠沙華」で真っ先に思い浮かぶ歌(句)は、

  

  つきぬけて天上の紺曼珠沙華

 

という山口誓子の句ですが、あえてこの句は採らずに、万葉集の人麻呂の歌を挙げてみました。

 

この歌に詠まれた「壹師の花」というのが曼珠沙華のことといわれています。(異説もあるそうですが)

そして、万葉集中、壹師の花を詠んだ歌はこの人麻呂の歌ただひとつということです。

「壹師の」は「いちしろく」(はっきり表れるの意。色が白いということではない)という言葉を導き出すための序詞の役目をしています。ですから、実際に目の前に壹師の花が咲いているかどうかはわかりません。咲いていなくてもいいわけです。

曼珠沙華は1輪だけでもとてもよく目立つ、自己主張の強い花です。山の辺に咲いていればすぐそれとわかる花です。その壹師の花のように、はっきりと皆に知られてしまったことだよ、私がいとおしんでいる妻のことを・・・。

人麻呂が「妻」と呼んでいる相手の女性は、秘すべき存在であったのでしょうか。
人麻呂が、女性を大切に思っている気持ちが伝わってくるようです。

と同時に、壹師の花というのが曼珠沙華であるのだとしたら、その花に象徴されるような、身を焦がすほどの深い情念が思われて、人麻呂の「妻」に対する妖しいまでの愛情さえ感じ取れる歌であります。

 

なお、林泉寺に関するレポはこちら

 

2004年8月撮影


水芭蕉(長野県鬼無里村 奥裾花)

2005-09-11 22:14:21 | 花だより

花と影ひとつに霧の水芭蕉(水原秋桜子)

水芭蕉と言えば尾瀬ですが、こちらは長野県鬼無里村の奥裾花自然園の水芭蕉です。
もう3年ほど前のGWに行ってきたところで、今頃載せるのも季節外れの感がありますが・・・


《水芭蕉の花について》

サトイモ科の多年草。芭蕉の葉に似ているのでこの名がある。
白い部分は仏焔苞(ぶつえんほう)と呼ばれる苞で、中心の薄緑の花柱についた黄色い小さな塊が水芭蕉の花。

 

奥裾花自然園 

(2005年5月 撮影)