
東京に行った時、赤羽のホテルに2泊したことがある。JR赤羽駅から続く商店街にはおびただしい飲み屋が確かに続いていた。この作品の舞台はそんな既知の光景だ。なんだかそれだけで身近な気分。もちろん赤羽はとてもいい町だと思う。滞在中はいつものように朝にはフラフラ小一時間街歩きをした。荒川河川敷にも行ったし、かなりの範囲をぶらぶらした。楽しかった。知らない町のなんでもない日常の時間。
そんなことを思い出しながらこの小説を読む。諍いから10年以上も頼りなく暮らしていた父親が倒れた。母親はいない父子家庭だった。父は脳出血から半身付随になる。これは父のやっている立ち飲み屋を引き継ぐことになるまでのお話。
決して甘いだけのハートウォーミングではない。42歳の女性が絶交していた父の面倒を看るだけでなく、仕事まで引き継ぐ。そんな気はまるでないし、もう父とは関わり合いたくなかったのに、誰も親族はいないから仕方ない。突然の出来事に戸惑いながら、一歩を踏み出す。
ザ昭和の飲み屋とそこを支えてくれる父の友人たちを通して彼女自身も変わっていく、というよくある人情劇だけど、介護の問題や幼児虐待を絡めて上手くまとまっているから心地よい作品になっている。