goo blog サービス終了のお知らせ 

習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

飛鳥井千砂『UNTITLED アンタイトル』

2013-11-05 23:07:20 | その他
 すごくいやな小説だ。好き好んでいやな話ばかりを選んでいるわけではないけど、こういうのが続くと落ち込む。

 31歳。桃子は実家暮らしで未婚。父と母、今は家を出ているけど実にやっかいな弟。4人家族。厳格なルールを作り、正しい生き方をしてきたという自信がある。だが、なんだか寂しい。自分は間違ってない。周囲はいいかげんな人間ばかりだけど、自分はそうはならないし、彼らとは違う。そう思って生きてきた。まず、そんな考え方をする時点でNGだろう。間違っているのはあんただ、と最初から思う。いやな女だ。

 話は突然弟から電話がかかってきたところから始まる。久しぶりに家に帰るという連絡だ。何か言いたいことがあるのだろう。平穏な毎日に亀裂が入る予感。彼が家に連れてきた女は彼女の常識では考えられないような女だった。弟は彼女と同棲するという。ここから話が始まる。そして、どんどん彼女の常識が壊れていく。

 まるで山田太一の名作『岸辺のアルバム』のような話なのだ。ふつうの家族が壊れていく。それぞれが秘密を隠し持っていて、それを知った主人公が悩む。大手企業で働いていたはずの父の解雇。家族に隠して、今ではマンションの管理人の仕事をしていることを知る。専業主婦だった母は悪い男に引っかかってお金を貢いでいる。弟は4歳も年上で自分と同い年の悪魔のような女と付き合っている。

 家族の秘密を知った彼女がひとりでそれを抱えて悩み苦しむ話、ではない。実は家族よりも、彼女自身が家族の中でガンだったこと。そのことにまるで自分では気づかないこと。お話のポイントはそこにある。まじめで潔癖。自分に対して完璧なルールを作り、それを見事に守ってきた彼女。だが、本当は彼女自身が一番いやな女で、うざったい女なのだ。これは、そんな彼女の仮面が剥がされていくというお話だ。

 前半イライラするし、こんなバカな女を主人公にするな、と思うけど、我慢して読んでいくうちに、作者の意図がようやく明確になる。自分だけが正しいと信じている彼女のバカさを、弟の彼女が暴いていく。それまで最悪の女だ、と思っていた彼女に自分の偽善を簡単に暴かれて衝撃を受ける。この展開は悪くないけど、あのラストはちょっと安直すぎて嫌い。

 今までの自分から一歩踏み出す、というのはそういうことではない。ナンパされて、軽い男に付いていく彼女の姿はとても惨めだ。あんなラストを用意するなんて、飛鳥井千砂は人が悪い。このバカなヒロインにこれではまるで救いがない。バカでも、賢いつもりで一生懸命生きてきた。そんな真面目な彼女を、ここまで突き放すなんてかわいそうだ。自由になる、ってそういうことではない。タガが外れてしまう怖さを描こうとするのか。でも、それより自分の愚かさに気付いた彼女が本当の正しい一歩踏み出すところまでを描いて欲しかった。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 綿矢りさ『大地のゲーム』 | トップ | SSTプロデュース『窓を開... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。