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映画・演劇のレビュー

『スタンリーのお弁当箱』

2014-04-03 22:10:30 | 映画
 こんなインド映画がとうとう登場したのだ。今までのインド映画の常識を覆す。これではまるでイラン映画ではないか。キアロスタミの『友だちのうちはどこ』を思わせる。マジット・マジティの『赤い金魚と運動靴』のようなユーモアもある。そして何より、ここには、どこにもなかったような新鮮な感動がある。

 しかも、それはただ楽しいだけではない。ラストまで見た時、いろんなことを考えさせられる。なんだか複雑な思いになる。決して単純に笑って暖かくなって、という心温まるコメディ、というだけではないのだ。シリアスなインドの社会状況を背景に抱えて、そんな中、子供たちがこんなにも生き生きと生きている姿をしっかりと見せていく。未来はこの子たちが紡ぐのだ、という感動がある。

 ここに出てくる子どもたちはみんないい子たちばかりだ。それに引き換え大人たち! あの愚かな先生。でも、彼を悪者にして糾弾するのではない。それにしても、驚きなのは、お昼にお弁当を持ってこられないスタンリーに対する子供たちの優しさ! うそだろ、と思うくらいにみんながみんな優しいのだ。普通ならそれを見てリアリティーがないと醒めてしまうところなのだが、この映画はそうはならない。この子たちは、ほんとうに誰一人として、スタンリーをいじめたりしない。彼らの善意は自然体なのだ。スタンリーもまた、そこで卑屈にならない。ただ、彼には彼の考え方や美意識がある。両親がいなくて、弁当を作ってくれる人がいないことをなんとしても隠そうとする。水をがぶ飲みして、空腹を満たそうとする。なんともいじらしい。

 ハッピーエンドはうれしい。みんなが幸せになれたなら、それが一番だ。現実は過酷でそんなにも簡単ではないだろう。だが、ただ悲惨を見せるのではなく、ちゃんとした夢を映画は届けたい。そういう意味でも、この映画はすばらしい。お弁当は美味しそうで、よだれが出るほどだ。最初のあまりに質素なお弁当の数々にも驚いた。あんなので、いいのか、と思う。でも、誰もそれを疑わないし、それを美味しそうに食べていた。最後の豪華なスタンリーの振る舞うお弁当は幸せのシンボルだ。よかった、よかった。




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