加納朋子だと勘違いして借りてきた。お笑い芸人のAマッソの加納という人が初めて書いた中編小説2本立。
『黄色いか黄色くないか』の主人公の唯は、お笑いが大好きで高校卒業後、お笑いライブハウスで働いている。そこにやってくるたくさんの無名の芸人たち、そして劇場スタッフとの交流が描かれる。自分がよく知っている世界を丁寧に慈しみ描く。
もう1作はタイトルにもなっている『かわいないで』。高校生の日常を「かわいないで」というさりげない一言を軸にして描く。
どちらも大きな話はない。毎日の生活のスケッチだ。そんな日々の中で少しずつ動く時間。その微妙に心動かされる瞬間が切り取られていく。ドラマチックから遠く離れて、今この瞬間の心の揺らぎが活写される。例えば仕事終わり、バイト先の大学生と一緒に駅まで帰ったこと。何もないけど何かを期待してしまい、ガッカリすること。推しの芸人さんがやめてしまうこと。たったそれだけ。だけどそれだけがとても大事だったりもする。
力作だとは思う。これはこれで悪くはないとも思う。だけど、今一歩足りないものがある。だから少し残念。あまりに世界が狭すぎた。