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映画・演劇のレビュー

『フェラーリ』

2024-07-06 17:10:00 | 映画

マイケル・マン8年振りとなる新作。しかも彼にとっては念願の企画。ということで、これをまず見ないことにはこの1週間は始まらない。彼の『ヒート』は伝説の傑作である。3時間のヒリヒリする刑事アクション映画で、デ・ニーロとアル・パシーノの代表作の1本だという事は誰もが認めることだろう。そして今日、さらなる傑作に出合うことを期待して劇場に向かう。

とても渋い映画だった。派手なカーレス映画ではない。重厚な人間ドラマでもない。寡黙でひたむきなひとりの男の姿をただ見せていくだけ。彼は立派な人物ではない。妻と愛人の間でズルい生き方をしている。息子の認知もしない。レースに固執して車を売ることは後回し。自分勝手な男だ。だがそれは自分でもわかっている。今では彼と敵対する妻に対しても何もしないで一緒に暮らしている。もともとは共同経営者だったけど、(今もそうなのだが)彼の中にはもう妻は存在しない。愛人と息子に対しても同じ。大切だけど、絶対ではなく、時間を作って会いに行くだけ。

フェラーリの車がいかに速く走りレースの勝者になるか、それだけ。お金とか名誉とか、そんなことではない。クライマックスの事故は衝撃的だ。レーサーだけでなく、沿道にいた9人の死者(内5人が子ども)を出した。街中も含む一般道でのスピードレースって、ありえない事だと思うけど、1957年にはあり得たのか。(今もある?)

マイケル・マンはこの企画に拘り、その寡黙な映画で何を伝えたかったのか。ほんの数ヶ月の話に凝縮した狂気のドラマは寡黙なまま終わる。主人公のふたりを演じたアダム・ドライバーとペネロペ・クルスが凄い。相反する狂気を体現した。


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