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映画・演劇のレビュー

『王になった男』

2013-03-22 19:48:30 | 映画
イ・ビョンホン主演の時代劇スペクタクル。本国では大ヒットした作品だが、日本ではなかなか難しいようだ。公開から1カ月過ぎてようやく、見た。平日の梅田の劇場で、たったひとりで見る。勘違いしないように。それって、文字通り劇場に観客が僕しかいない、ということだ。
こんな経験は久しくなかったことだ。僕さえいなければ、上映しなくともいいから電気代も使わなくてよかったのに、なんだか済まない気分になる。でも、僕は王様気分だ。昔、場末の映画館なんてものがあった時代ならよくそういう経験もしたけど、今のシネコン時代になってからは、誰もいない劇場でたったひとりで見るということはなかった。しかも、梅田の映画館である。確かに観客が数人なんてことは何度かあったけど、これは前代未聞だ。

だが、映画自体はとてもよかった。影武者の話だということは知っていたけど、こんなにも、よく出来ているとは思わなかった。見てよかった。何がいいかというと、お決まりのパターンに則りながらも、ちゃんと驚きを用意出来たことだろう。それはとても心地よい衝撃だ。暴君が改心する、とか、賤しい身分の道化が王となることで君子へと成長していく、とか、言葉にすれば陳腐だが、そんなストーリーを、中途半端な描き方ではなく、きちんと展開してくれるから、この映画はおもしろいのだ。「お決まり」や「お約束」を、衝撃的に描くのはなかなか出来ることではない。演出だけではなく、役者も含めてアンサンブルが見事でなくては納得させられないだろう。

影武者として王になった男は、ただ言われるまま王の代役をこなしていただけだが、(それだけでも凄いプレッシャーだ!)やがて、自分の頭で考え始める。今ある政治はおかしい。この国の民のことなんか何も考えてない。そんなこと、当たり前の話だが、彼は権力を笠に着て、改革を始める。おどおどしていた彼が正義を行使する。だが、やがて政略から病に倒れていた王は復活する。そして彼は道化が自分のいなかったこの15日間でしでかしたことを知る。暴君として今まで好き放題をしてきた彼が最後に何をするのか。自分とそっくりの道化男を通して、彼は変わる。

それは、とても小さなことから始まる。15歳の少女が凌辱されやがては身を売ることになる。自分のせいだ、と彼は思う。それをきっかけにして、宮中で、同じ様な境遇の毒見役の15歳の少女に出会い、彼女を助けたいと思う。それがすべてのきっかけとなる。やがては、とんでもないことを成し遂げる。これはそれまでのドラマだ。ただの男が王になる。身代わりでしかなかったのに、それが本当の王となる。それは表層的な問題だったはずなのに、やがては内面的なものとなる。最終的にこれは立派な王の条件についてのお話となるのだ。





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