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映画・演劇のレビュー

ともにょ企画『ハッピー! ハッピー、ユートピア』

2013-03-21 19:48:28 | 演劇
 これはまるでエッセイのような芝居だ。心の赴くままにフリーハンドで書いていく。「幸福」がテーマだ。いつもならともにょの芝居は、鈴木さんのぐちゃぐちゃの脳内宇宙が描かれるのだが、今回はそうではない。鈴木さんはエディターに徹する。自分の意見とか考えなんか言わない。街中で出会った人たちの語る声に耳を傾ける。彼らの声を拾い集める。

 一戸建ての家を買いたいと望む夫婦の話と、街頭で歌うフリーターのミュージシャンの話が中心になるけど、これは彼らの物語を見せるのではない。あくまでも断片だ。たくさんの断片をコラージュする。でも、そこから何かを引き出そうというのではない。ただ取りとめもなく提示していくだけ。

 ともにょの役者たちがそんな街の声を演じる。最初、みんな同じような白のつなぎを着て、登場する。開演前から彼らは劇場内をフラフラしている。観客と自由にしゃべったり、どうでもいいようなことを話している。素の自分としてそこにいる。そして、そのまま、本編に突入する。これは普段の等身大の彼らに近い。演じるというよりも、ラフスケッチをするためにそこにいるようだ。だから芝居は作り込まれたものではなく、稽古風景を見せられた感じ。イロリムラ・プチホールという会場にシンプルさもまたいい方向に影響している。

 これは「ハッピー」を巡る夢の話だ。みんなの夢を一言で語ってもらう。でも、本当は夢を簡単に語るなんてことは難しい。でも、街中のインタビューで、屈託なく語る人たちがいる。彼らはその瞬間なんとなく思いついたことをしゃべる。責任なんかない。お互いにそんな軽いノリだ。そんな声を通して、この作品は今の時代の気分の一端を描く。それ以上でも以下でもない。そんな軽やかなフットワークがとても新鮮だった。こんな芝居もありである。

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