いつもこのインパクト大なチラシに驚かされてきた。毛筆で書かれた文字だけ。一度見てみたいと思いつつも今まで見ることがなかったのだが、今回初めて見ることができてよかった。我が道を行く、というスタイルを貫く沢渡さんの姿勢がどこから生じるのかはこれだけではわからないけど、あまり類を見ない芝居だと思う。
だいたい安部公房の戯曲を取り上げるなんてのが凄い。これはもう古典だけど、このアバンギャルドな世界を今という時代に提示することにどんな意味があるのか。気になる。安部公房は古びない、とは思わなかった。それどころかこの芝居は古いし、展開も単調。しかもスピード感はない。今まで毎回オリゴ党の岩橋貞典作品を取り上げてきた沢渡さんだが、今回初めて他の作家を取り上げたのが、まさかの安部公房。その意図はどこにあるのだろうか。気になる。当日パンフには20歳の時にこの作品に出たことがある、というエピソードが描かれてあるけど、今これを取り上げる意図は不明。
これはある種の不条理劇だ。不条理劇といえば別役実が思い浮かぶが、最近別役も上演されることが少なくなった。一人暮らしの女性の家にいきなり家族でやってきた7人。平然と上がり込み居座る。女はまさかの展開に茫然として、なんとかして追い出そうとするが、平然と居座る。110番で呼び出した警察も事件性がないとまともに対応してくれない。彼らは穏やかであまり恐怖はない。だが、理不尽を受け入れるわけにはいかないが、どうしようもない。
原作の男を女に置き換えて描くが、それがあまり大勢には影響しない。後半監禁されたところからの展開も単調。お話としての怖さ、盛り上がりにも欠ける。もう今では原作戯曲に力がないのだろうが、それを補ってあまりあるドラマを提示出来なかった。残念。