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映画・演劇のレビュー

小野寺史宜『ひと』

2023-07-31 05:59:00 | その他

最近めきめき力をつけてきた小野寺さんの初期作品。2019本屋大賞2位に輝いた作品が文庫化された(発売は21年6月だけど)からさっそく読み始めた。相変わらず読みやすいから、往復の電車の中で半分以上読めた。

内容はとても暗いのに、なんだか元気を貰える。不思議な小説である。事故で父を亡くし、数年後にいきなり母も亡くし天涯孤独になつた20歳の青年が主人公。お金がないから大学も辞めて、今は仕事もなく、少なくなった貯金を守りひとり東京で暮らす。偶然町角で立ち止まった揚げ物屋。50円のコロッケを購入した縁から見つけたそこでアルバイトをして生計を立てることに。
 
そんなひとりぼっちの彼の日々を描く。少しずつ今の生活を守りながら、自分の生き方を固めていく姿を静かに見守る。単純なハートウォーミングではない。だけど、心は温かくなる。揚げもの屋、田野倉のオヤジさん、スタッフの面々の優しさは彼の謙虚さ故であろう。お金をゆすりにくる叔父に対して毅然とした態度を取れない弱さ。(優しい故)そんな彼を守ってくれる先輩や同郷の女の子。
 
ひとがひとりで生きる痛みと、まわりが助けてくれることのありがたさ。だからまた、自分もひとに優しくしたいと思う。
 
小野寺ワールドはこうして作られていく。振り返ればこの数年で軽く10冊は読んでいる。小路幸也ほどではないけど、かなり多作だ。でもいつも同じ。これはそんな彼の原点となる代表作だろう。

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