第66回群像新人賞受賞作。新人のデビュー作を読むのは楽しい。ドキドキしながら読み始めた。コロナ禍直撃の頃、公園にある縛られ地蔵の前で高二の女の子が、同い年の女の子と出会う。しずくとタマキ。ふたりで過ごす時間が描かれる。不妊治療に失敗してそれでもまた子供を産みたいと苦しんでいる母と偏頭痛に苦しめられる娘しずく。父親の死んだ理由。彼女の秘密。同じようにもうひとりの女の子タマキ(本当はメイ。タマキは死んだ妹の名前)も秘密を抱えていた。妹を亡くしたこと。その理由。
ふたりが抱える秘密。それは死んでしまった人を想うこと。今も死者に囚われたまま、死んだように生きるふたりの出会い。同じ痛みを抱えるふたりが、お互いを隠したまま表面で付き合っていた時間。
誰かの死を願った、わけじゃないけど死んでしまったという事実は変わらない。それは彼女たちのせいじゃない。本気じゃないから。だけど、、
彼女たちが暮らす町の公園には縛られ地蔵なんていうものがあり、それを信じてやってくる人たちがいる。何かに縋りたい。信じたわけではないけど、頼りたい。信じたい。悔恨を抱えて生きるのはしんどい。この小さな小説は、そんなはっきり形にならない想いを綴っていく。しずくの母の赤ちゃんの誕生まで。それは小さな希望。