なんと沢木耕太郎の小説の映画化である。沢木さんがこんな小説を書いていたなんて知らなかった。だから最初『一瞬の夏』の映画化か、と思った。ポスターに「ふたりは『一瞬』だけを生きると決めた」と書かれていて、「原作、沢木耕太郎」という文字を見た瞬間、心躍った。もちろんタイトルが違うし、あのノンフィクションをドラマ化するのは難しい。ないわな、と思う。ただ、この小説のテーマやお話は確実に通じるものがある。これは『一瞬の夏』の姉妹編だろう。
脚本、監督は瀬々敬久。瀬々さんがこんな映画を撮る。主演は佐藤浩市と横浜流星。それだけでこの夏一番の期待作である。夏の終わりになりようやく公開された。もちろん何を差し置いても見に行く。
これはボクシング映画だ。お話はよくある定番から一歩も出ない。王道を行く。大娯楽活劇映画だ。
だが、これは最初は老人3人の話として始まる。佐藤浩市、片岡鶴太郎、哀川翔のアラ還オヤジが40年振りに再会する。彼らは40年前、ボクシングに命をかけていた仲間。だが今では見る影もなく、落ちぶれている。そんな彼らが同居することを描くエピソードから始まる。まさか老人たちがシェアハウスで暮らしていく話だとは、驚きだ。やがてそこに横浜流星の若者が弟子入りしてくる。よかった。やっとボクシング映画になるよ。老人ホームの話ではない。
ここからは王道。予定通りのストーリーに佐藤浩市の病気、入院。横浜流星の視力。世界チャンピオンに挑戦するチャンス。まるで少年漫画みたいな展開。そしてもちろんクライマックスのタイトルマッチは凄まじい。よくある音楽を流して盛り上げて見せていくなんていうあざといパターンはしない。丁寧にまるでドキュメンタリーのように見せる。延々殴り合い、最後はスローモーションまで使っていく。結果も、まさかの展開も、さりげなく見せた。
試合で終わりではない。エピローグもある。ラストまで、爽やかに見せてくれる。あの終わり方はいい。
老人と若者。ふたりの交流だけではなく、周囲の人たちも生き生き描かれる。脇役の彼らのドラマもしっかり描かれる。鶴太郎がいい。ただ哀川翔は少し可哀想だ。見せ場がない。