
サブタイトルには『恋と食のある10の風景』とある。10人の作家たちによる7つの小説と3つのエッセイ。そうそうたるメンバーが並ぶ。(しかもみんな女性! いや、君嶋彼方は男性だった)
このタイトルだから当然「恋と食」を扱った作品が並ぶけど、ここに描かれる恋はあまり幸せには見えない。壊れそうなものを食事によってなんとかしてフォローしているって感じだ。だけどこの微妙なバランスがいい。壊れそうで壊れないのは食べるという行為がそこにあるからだ。
好きな人と一緒に暮らしているのを静かに受け止める。彼のいなくなった奥さんの幽霊に見守られながら。(ここにはいないのに彼女にだけ見える)彼は毎月今も元妻のためにコッテリした料理を作る。(一穂ミチ『わたしたちは平穏』)
このエピソードから始まる10のお話はいずれも静かに寂しくて、幸せだけど切ない。古内一絵は20も年下の男と同居する話。恋愛ではない。仕事のパートナーだけど、同居しているということが周囲の興味本位の誤解を招く。男女が同じ家で暮らしていたら、周りは勝手な憶測をして楽しむ。自分たちのことなのに、そんな厄介な視線に耐えていく。君嶋彼方の描く男性同士のカップルの話も同様だ。
さらに次の『くちうつし』(錦見映理子)はなんとたくさんの死者(両親、さらには大事な夫)を出した女の話。大切な人を失った彼女が、出会う幽霊の話。出会った彼女に髪を切ってもらって、ふたりは一緒に美味しい食事をする。そして元気になる。このパターンは原田ひ香『夏のカレー』も同じ。死者がやって来て、これまでの人生を振り返る。
奥田亜希子は、地味女がイケメン男と結婚する話。尾形真理子の大谷を見にアメリカに行く話。この二つはイマイチ。
前半部分は面白かったけど後半はあまり乗れなかった。エッセイはあまりに短く印象には残らない。