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映画・演劇のレビュー

『ドロ-ン・オブ・ウォー』

2015-10-15 19:42:55 | 映画
これは従来のよくある戦争映画ではない。戦場は一切出てこない。21世紀の戦争は戦場に行かなくても出来る。ドローンを使い遠隔操作でアメリカにいながら、スィッチひとつでアフガンを攻撃できる。そういう恐怖を描いた映画なのだが、攻撃される側のドラマは一切ない。TVゲーム感覚で殺戮する米兵の心の闇を描く。アメリカ映画のパターンだ。いつも、自分たちが被害者顔する。70年代から80年代にかけてたくさん作られた「ベトナム戦争もの」の系譜。病んだ米兵のトラウマ。

2010年という映画の背景は、これが実話の映画化であることを伝えるだけではなく、今ある危機についての映画であることを明確にする。だが、全然衝撃的ではない。『ガタカ』『ロード・オブ・ウォー』のアンドリュー・ニコル監督は、現代の戦争が兵士をどんなふうにスポイルしていくのかを描きたかったのかもしれないが、彼らの現実感のなさが、彼らの心を病んでいくなんてくらいで終わらせるのなら、作る意味はない。

ただ、これは確かに今のアメリカの気分を伝えている。この病んだ国の現状はここに尽きる。敗者となったベトナム戦争以後も、終わることなく戦争をくりかえす愚かな国アメリカ。アメリカに負けて戦争を永久に放棄したはずの日本までまた、その戦禍に巻き込もうとする。自国ではなく、あらゆる外地を戦場にして、たくさんの人たちを犠牲にする。9・11を忘れないなんていうのは、どの口だ。あのテロで自国が戦場になったから、その報復に、何をしてもいい、らしい。

『アメリカンドリーマー 理想の代償』とセットで見たからかもしれないが、あの映画のほうがずっとリアルに今ある危機が描かれてある気がした。1981年という30年以上昔の出来事を描きながら、正義を貫くことが、いかに困難かを描くことで、病んだ現代のその先へと向かう。81年の危険な街ニューヨークの現実が今の安全で健全な街ニューヨークと対比することで、(というか、この映画には一切今は描かれないけど、ここに描かれる荒んだ都会は否が応でも比較を強いる)未来はどうあるべきかを伝える。もちろん、それはこの映画の主人公をヒーローとして持ち上げるのではない。それどころか、彼は勝者には見えない。全身が傷だらけで、敗者にしか見えない。あのラストにはアメリカンドリームを実現した男のカタルシスは一切ない。だが、そこにこそ、僕たちが実現するべき、未来がある。

ただ、自分たちは被害者で、病んでいる、なんて甘えたことをいうばかりのこの映画よりもずっと志は高い。



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