
こんなそっけないタイトルだから見過ごしてしまいそうな小説だけど、これがとても素敵な作品だった。知らない作家さんの本だけど、手にとってよかった。
鳥と港をイメージさせる表のイラストは、さりげないけど凝っている。パッと見は鳥。よく見ると港。鳥の目だけが黄色で、それが港のお月さまになる。ブルーと白。たった3色。読み初めて、本題に入って、気づく。これは「みなと」と「あすか」のお話。
主人公であるみなとは大学から院に行って(1年にも満たないけど)就職したが、パワハラに遭って仕事を辞めた24歳。今は無職のままフラフラ過ごす日々。ある日、公園の草むらで捨てられた郵便ポストを見つける。その中にあった手紙を手にするところからお話は本格的に始まった。そこにはあすか、という名前の人の手紙が入っていた。ふたりは文通を始める。
実家で暮らす日々。何もしないでふらふらしている。したい仕事がないなら、やりたいことを仕事にすればいい。だけどそんな都合の良い仕事はない。ならば自分で作ればいい。あすかとの文通から、まさかの「文通」を仕事にすることを提案される。文通屋さんって何?
みなとは、あすかと出会う。だけどあすかは同世代の女性ではなく、男子高校生だった。騙していたのではない。あすかは漢字で飛鳥。彼の本名。そんなふたりが文通屋を仕事にして、やがて仕事は軌道に乗ってくる。こういう話なのか、と思うが、実はそれだけではなく、これはまだ始まりでしかない。
クラウドファンディング、飛鳥の父が有名な作家だったこと、幼なじみの協力、文通を仕事にしたことで生じる弊害、思わぬ手紙、等々。あまりにさまざまな問題がどんどん噴出してきて、めまぐるしいくらい。あまりにてんこ盛り過ぎて、正直言って少ししんどくなる。
「好き」を仕事にしたらよくない。仕事は好きだけではやりきれないから。一番好きなことは取って置くといい。せめて2番を仕事にしよう。一番が嫌いになると辛すぎるから。ここまで読みながらそんなことを思う。
そんなところに、ゲンさんの妹さんからの衝撃的な手紙が届く。ちょうど190ページ過ぎたところだ。全体が320ページほどのボリュームの長編小説である。この内容なら普通なら250ページくらいに収まる。だけど320。まだまだ終わらない。
たぶんこの小説は普通じゃない。いろんな意味で予想を裏切る。こんな展開になっていくなんて思いもしなかった。
そして終盤まさかの展開になる。飛鳥の家出と、彼を探す旅。ドラマチックになるけど、違和感だらけ。だいたいこれは恋愛小説じゃない。しかも「よくある」にも収まらない。ふたりで起業するお仕事小説でもない。強いて言えば友情物語。25歳の女子と17歳男子。両親や父親を巻き込んで。生き方の模索。翼(飛鳥だけど)は港(みなとだけど)に帰る。
微妙な320ページの分量だから出来たこと。240ページから必ず帰るにもかかわらず家出先を捜し出し、そこに行くという話だけに絞られる。そして彼に手紙を書く。送り先の宛がない手紙だ。SNSで簡単につながることができる時代だからこそ、実際に逢うことから始まる関係が大事。それが手書きの手紙だということ。
回り道は最高の近道。というか、早いことがいいことではないし。これはなんだかわからないくらいにいろんなことを考えさせてくれる小説だった。