習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『シルク』

2007-12-29 13:34:05 | 映画
 『レッドバイオリン』のフランソワ・ジラールの新作。19世紀フランス。若き軍人(マイケル・ピット)がひとりの美しい女(キーラ・ナイトレイ)と出会い恋に落ちる。至上の愛を手に入れた幸福な若者は仕事のために、彼女と離れ、遥か異郷の地、この世の果てにある日本へと旅立つ。この世で一番美しい布であるシルクを求めて。そこで、彼は絹のように美しい肌を持つ少女(芦名星)と出会うことになる。

 なんだか、自分勝手な男の話に見えるが、彼がもっともっとと美しいものを求めてしまう気持ちが、一つの寓話として、理解できないわけではない。彼が美を求めるのは、自らの欲望に突き動かされた行為ではなく、純粋に美しいものに、心動かされて、そこから目が離せなくなってしまうからだ。

 繰り返すが、彼は肉欲(凄い表現だ!)に溺れていくわけではない。目の前にいる大切な妻を捨てて異国の、言葉も通じないし、彼女自身のことすら何も知らないそんな少女を、どうこうしようとは思いもしない。ただ、純粋に少女の美しさに心惹かれていたことは事実で、心のどこかで彼女を求めてしまう。

 これは観念的な美の殉教者の物語として読むべきであろう。ここで描かれる日本は上質の蚕の産地という意味だけではなく、遠い遠い異郷の地として設定されてある。リアリズムで考えたなら、ちょっと不思議な場所である。だが、19世紀のフランス人には、こんなふうに見えたのかも知れない。あくまでも観念の中の日本として理解してもいい。そんな場所で、不思議な体験をし、美しいものに出会う。現実の妻を求める気持ちと幻想の少女を求める気持ちが交錯していく。そんなお話である。

 映画としては中途半端な出来で、こちらの胸には届いてこないもどかしいものだが、この美しい映像と、何も言わないが全てを心の内に秘めて行動する主人公の姿を見ているだけで、なんとなくなら納得させられる不思議な映画だ。ヒロインのキーラ・ナイトレイの側からは、お話が描かれないのが少し不満だ。

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