
これも近畿大学舞台芸術科有志団体による新入生歓迎公演。前回の『鬱憤』も見事だったから期待は高まる。これは熱意溢れる学生による拙いけど気持ちのいい芝居ではない。それどころか、そのへんの中堅劇団なんて到底及ばない力作であり大傑作だ。
脚本、演出、役者、スタッフワークも含めて完璧。実に見事だった。90分、最初から最後まで中弛みなく緊張を持続させる。意外な展開を含めて納得のいくドラマは小劇場演劇の王道を行く。そこでは究極の映画を夢見る旅が描かれる。お話は2000年から始まる。懐かしい近過去はやがて未来に突入する。
SFだけど、お話に説得力がある。6人の役者たちも適材適所でまさかのラストまで引っ張ってくれる。どこで終わるのか、どこまで行くのかドキドキしながら見守って見ていると、想像した地点のさらに先をいく。
4047年になったところで終わるのかと思ったら、なんのなんの。まだまだ先に連れて行ってくれる。さらにはその先へ。しかも最後はちゃんと2000年に戻ってくるだなんて、「やられた!」って思った。最初の方で語られるふたりの映画館での出会いを見せる場面は泣かせる。ガラガラの映画館。たったふたりだけで見た映画。劇場にいた知らない彼女に話しかけた瞬間からこの壮大なドラマは始まったのかと気づく。
いささかここまでに行き着くラストシークエンスは長い。引っ張って引っ張って長いけど、そこにはちゃんとお話を仕掛けがあるから納得する。これはロバート・ゼメギス、トム・ハンクスによる最新作『HERE 時を越えて』を越えてしまう作品である。シンプルな舞台美術,装置なのにそれが素晴らしい。真っ黒な空間に白のチョークで文字を書く。地面に書いているのはほとんどが数字と線だけど、それもいい。
冒頭、全キャストの8人が登場して8の字を描く。無限♾️を彼らが提示するところから芝居は始まる。彼は映画を作りたいと思う。彼女を主人公にして。だけどなかなか作れない。1年後、3年後、と倍々で月日が過ぎていく。ふたりの子ども、孫、さらにその先。舞台も地球から月に。千年先からさらに未来に。
20歳のふたりのラブストーリー(さらにはふたりと、もうひとり。何故か、これは男ひとりに女ふたりの3人組の友情物語でもある)彼らの生きる2000年から始まって、遥か彼方まで。たった90分の芝居はなんと永遠にまで手が届く、演劇だから可能な壮大な冒険がここには描かれる。作、斜田章大。演出、吉岡竜輝。真っ黒な空間に広がる千年のさらにはその先まで続く恋物語にやられた。20歳前後の大学生にしてやられた。まさかの傑作。