
あるラジオ番組のパーソナリティを務める小説家、槇村。深夜11時から1時間の番組だ。そこでは誰にもある特別な1日を紹介している。しかしお話の根底には彼が遭遇した7歳の頃の不思議な出来事がある。それが気になって、そこから始まる物語。小路幸也は相変わらずのストーリーテラーだ。気持ちよくどんどん読ませてくれる。一応は長編小説だけど、ショートショートの連作を読んでいる気分になる。
さまざまな人たちのある1日を紹介していく。さらりと描かれる不思議な時間。この世界にはそんな出来事が溢れているのかもしれない。小説家の槇村朗はまるで小路幸也の分身だ。(知り合いの作家として小路幸也も一瞬登場するが)短いお話の連鎖。
この小説はラジオ番組の放送をそのまま活字にしている。もちろん、そんなスタイルの小説だ、というわけだが。そんな短いお話の連鎖を楽しむ。電車の中で読むのにピッタリ。
お話の核心には幼い頃の誘拐事件がある。先にも書いた槇村が7歳の頃の出来事である。緩やかにその謎に向けてお話は進行していく。だけどこれは謎解きのはない。番組に寄れられたさまざまなお話を描くことがメインである。ある意味新機軸だけど、誘拐事件の顛末は少し重すぎるし、全体のタッチにそぐわない。