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映画・演劇のレビュー

『オーバーフェンス』

2016-09-24 22:29:06 | 映画

 

この秋、一番の期待作は『怒り』であろう。じゃぁ、それをまず見に行けよ、と思うけど、まず、2番目の期待作であるこれから見に行く。山下敦弘監督が、佐藤泰志の作品を映画化するのは、いかにも、で、これは結果的に、高い評価を得ている熊切和嘉監督『海炭市叙景』、呉千保監督『そこのみにて光輝く』に続く「函館三部作」最終章となる。先の2本と比較する必要はないけど、同じ原作者の同じような「いじけた小説」を、いつもいじけている山下監督が描くことで、シリーズ集大成のような作品に仕上がった。見事としかいいようのない傑作である。でも、見ていて、嫌になる。いろんなことが。そんな映画でもある。

 生きることに疲れてしまい、死んでるように生きている男(オダギリジョー)が主人公だ。ここにはお話らしいお話なんかない。ただ、なんとなく、なんの目的もなく、日々をやり過ごしていくだけ。仕事を辞めて、妻子に逃げられて、仕方なく職業訓練学校に通う40男が主人公だ。だらだら自転車を漕ぐ。食事はホカ弁とビール2本。大工になるコースで、学んでいるけど、別に大工になりたいわけではない。これはそんな彼の日常のスケッチだ。訓練校のクラスメイトたち(当然、若いのから、なんと、60過ぎのおっさんまでいる)もそれぞれ様々な問題を抱えている(はず)。そんな彼らの群像劇でもある。ひとりひとりの断片だけが彼の視点から、垣間見える。

 

ある日、ひとりの女(蒼井優)と出会う。昼間は寂れて遊園地で働き、夜はホステスをしている。すぐに感情的になり、暴れる。鬱屈した自分を抑えきれなくなる。こんな女に関わると、とんでもないことになる。でも、彼は彼女に魅かれていく。というか、彼女が彼の関わろうとするのに引きずられるのだが。お互いに死んだような存在で、愛し合う、なんていうものではなく、お互いに寄り添うのでもなく、ただ、なんとなく、気になる程度か。それくらいに淡い関係性を保つ。だが、彼女を通して彼は避けていた妻と子供ともう一度向き合おうとする。少しずつ、何かが変わろうとする。

 

この映画を見て、元気になれる、わけではない。それどころか、最初にも書いたように、嫌な気分にしかならない。だが、この嫌な気分は生きていることに繋がる。いつも幸せであるわけではない。そんなわけはない。ラストでフェンスをこえるボールは、ハッピーエンドには、ほど遠い。だが、それでいい。今、この瞬間、とてもいい気分だ。それが明日に続くわけではない。わかっている。

 


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