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映画・演劇のレビュー

『リップヴァンウィンクルの花嫁』

2016-04-01 22:07:50 | 映画

3時間の上映時間が長くはない。もちろんあっという間だった、なんて言わない。確かにこれは長い映画だ。でも、その長さがこの映画の魅力でもある。ずっと彼女を見ていたい。そんな気持ちにさせられる。この先何が待ち受けているのか。全く先が読めない映画だ。だから、目が離せない。

 なんだか危なげで、少しおバカな子、七海(黒木華)。23歳。SNSで知り合った男と簡単に付き合い、結婚する。教師になりたくて、臨時教師として中学で教えているけど、生徒にバカにされている。自分に自信がない。ただ何も考えず、流されるように生きているよう。だけど、彼女はただのバカではない。

でも、上手く立ち回れない。そしてすぐに人に頼る。便利屋の安室(綾野剛)が、彼女を助ける。でも、こいつは一体何者なのか、よくわからない怪しい人物で、でも、そんな男を簡単に信じて頼る。きっと騙されてとんでもないことになるぞ、と思い見ている。案の定そんな感じの展開になるのだが、でも、なんだかおかしい。この男は彼女を騙しているわけではなさそうなのだ。

お話は日常のスケッチから始まるが、それがなんだか普通じゃない。それどころか、だんだんここが不思議の国に思えてくる。東京の町で暮らす、ということはこういうワンダーランドなのか。なんでもない日常のはずだし、特別な出来事なんか起きない。(こんなにも起きそうなのに!)

彼女はただ、安室から紹介されたアルバイトをこなしていく。この世界のかたすみには、なんだかよくわからないものがある。そんなものに出会うことになる。お屋敷のメイドをすると月に100万の報酬がもらえるなんて、絶対に裏があるとしか思えない怪しさだ。でも、無防備にもそこに飛び込む。そうなのだ。この子はいつもそうだ。何も考えず危険に飛び込む。本人にはそれが危険であるという自覚がない。普通、こんなことをしていると、痛い目に合う、はず。でも、そうはならない。安室はいつも助けに来てくれるし。

だから、これはなんだかリアルじゃないのだ。でも、納得させられる。それはふわふわした黒木華の存在感ゆえだ。ありえないような話にしらけるのではなく、乗せられていく。いったいどこまで連れていかれるのだろうか。想像もつかない。いや、想像の彼方へと誘われている。でも、これはとんでもない話ではない。 

これはひとりの女の子のまどろみの時間なのかもしれない。そして、ここで描かれることはもしかしたら現実ではない、のかもしれない。ただ、気付くと彼女は今までの自分から成長を遂げている。この不思議な話が日常の延長線上にあり、でも、普通じゃない。そんなバカなとも思わない。それってやっぱりなんだかふつうじゃない。そんな映画だ。

岩井俊二監督が12年振りで日本で劇映画を撮った。なんとそれは『花とアリス』以来、ということだ。もうそんなにもなるのだ。そに事実には驚かされる。彼は昨年アニメ作品として作られた続編であり、前日譚でもある『花とアリス殺人事件』を作っている。その前にはアメリカで劇映画『ヴァンパイア』も撮っているけど、『花とアリス』からはもう12年にもなるのだ。そんなにも長い不在。

でも、待ったかいがあった。これは素晴らしい映画だ。近年ここまで新鮮な映画体験はなかった。待ちに待った岩井映画がこれだけの大傑作でよかった。『リリイシュシュのすべて』以来の静かな衝撃がそこにはある。

 

 

 

 


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