
読みやすいし、心地よいからついつい読んでしまう飲食店関係の小説。もちろんそこには出来不出来はあるけど、ハズレは少ない。そしてこれも、とても気持ちのいい作品だった。『深夜食堂』のフレンチ版。夜の9時から朝の7時までが営業時間。人知れず、密かに知る人ぞ知る路地裏にある小さなお店。
そこの常連になる30代の女性はチェーン店のレストランの店長をしている。毎日深夜までの仕事でいつもクタクタになっていた。「キッチン常夜灯」を知り、やがて頻繁に通うようになる。ホールの堤さんと優しいシェフがいつも出迎えてくれる。
仕事でクタクタになった体でやって来て、癒されて帰っていくというよくあるパターンなのだけど、この心地よい空間を作るスタッフの心情が描かれることで、これは単純な優しいだけの「飲食店もの」とは一線を画す。生き方の問題になっていく。美味しい料理は人を元気にしてくれる。ただ、美食を描くのではない。まずそこには人がいる。
キッチン常夜灯に集まるお客さんはシェフと堤さんがいるからここにくる。彼らのおもてなしが、みんなを幸せにする。もちろんそこには美味しい料理がある。