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映画・演劇のレビュー

『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』

2009-09-19 20:08:34 | 映画
 移民の問題を扱った映画は今までもたくさんあったが、こんなにも本格的に、あらゆる側面から多面的にメスをいれた映画はなかった。本腰を入れてアメリカがこの問題と向き合う大作だ。こういう映画が見たかった。しかもマイナーシーンからの発信ではなく、ハリウッドの大作映画として取り組んだということを高く評価したい。

 この国が移民をいかに受け入れ、あるいは拒絶したのか。メキシコからの越境者や南米からだけではない。中東から、韓国から、中国から、アジア諸国から、そして、オーストラリアから。古くはイタリアから、ヨーロッパ諸国からも。さまざまな人種、宗教を背景にした人たちが自由の国、アメリカへ希望を抱いてやってきた。グリーンカード取得を巡る映画も今までたくさん作られた。不法滞在強制送還なんてのも、星の数ほどある。そんな中、今回の映画は真正面からこの問題に挑み、答えを出す。

 ハリソン・フォード主演であるにも関わらず、本国ではたった9館で公開がスタートしたらしい。(日本でもこんなにも地味な公開である。梅田では100席の小さな劇場でレイトショーを含んで1日たった2回しか上映されない。ただ、初日の今日は、ほぼ満席でスタートしたのはうれしいが。)

 アメリカでこんなにも地味な公開のされ方しかしなかったのは、この映画が単純な娯楽アクション映画ではなかったから、という理由だけではないだろう。タブーに触れ、自分たちの恥部をさらけ出しているからだ。見たくないものを見せられたから、アメリカ人は、ここから目をそむけようとした。

 この国には言論の自由はない。そのことに驚く。イスラムの少女は学校で9・11について率直な意見を誠実に述べる。ただそれだけで彼女は拘留されることになる。クラスでそれが受け入れられないだけでなく、国家から危険分子として排除される。正しいことが正しいこととしてまかり通るわけではないなんてわかってるが、それにしてもこう正面から否定されるとへこむ。もちろん彼女の考え方が全面的に正しいというのではない。だが、少数の声に耳を傾けない、この国のファシズム的発想に今更ながら驚く。赤狩りの時代ではなく、現代の話なのに、である。

 主人公のハリソン・フォード演じる移民局の捜査官は、自分に出来る範囲で、正義を貫こうとする。不法滞在者を強制送還するという仕事を全うしながら、その不条理に苦しんでいる。そんな彼を中央に据えて映画はさまざまな人たちの群像を見せていく。彼らの織りなすアラベスクが、巨大なうねりとなりこの映画を包み込む。

 こういう本当に意味で、すべての人が見るべき意義のある映画が、出来うる限りたくさんの人の目に触れて欲しいと切に願う。

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