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映画・演劇のレビュー

相場英雄『共震』

2013-11-21 20:59:18 | その他
 震災を扱った小説で、エンタメ系の作品で、でも、ここまでシリアスで、とことんリアルなドキュメンタリーで、もちろん、それをねらっている。東北を舞台にして今までたくさんの本を書いてきた作者の思い入れがあるはずで、いろんな意味で、これは凄く困難なことに挑んでいるはずなのだ。だが、小説としては失敗している。

 特に残念なのは、終盤の謎解きがあまりに単純すぎて、こんな程度のお話だったのか、とがっかりさせられたことだ。震災の事実と拮抗するだけのドラマを作らなくてはバランスが悪い。でも、フィクションはノンフィクションに勝てない。震災の背後で善意のフリして多大な利益を得る悪い奴らを追い詰める話というある種の定番。もう少し、お話に奥行きがなくては納得できない。

 相場英雄の本を読むのは初めてだった。これはミステリというよりも、震災を扱ったノンフィクションとして読まされた。それだけに事実の積み重ねである前半は圧巻だった。主人公の2人が、それぞれの立場から被災地に入ってそこで生きる人たちの姿を見て、感じたことが描かれる。新聞記者と警察というそれぞれの立場があり、そこから見えてくるものは変わるけど、事件の真相を追うことよりも、被災地における彼らの姿を追うことの方が興味深い。彼らが見たもの、感じたこと。それがこの事件とどうシンクロしていくことのなるのか。ドキドキしながら、見守ることになる。

 なのに、殺人事件の犯人は誰なのか、とか、トリックとか、そういう話になると、と、途端にお話が減速する。特に終盤、急に詰まらなくなる。別に震災はどうでもよくなってしまうのはまずくないか。被災地の惨状、夥しい死者。そこに、被災地の善意の象徴的存在である殺された県の職員の無念がどう絡んでくるのか、ドラマをどこに持ってきて、どうまとめるのか、そこが作者の腕の見せどころのはずだった。なのに、トリックがしょぼいこともあるけどまるで尻すぼみのラストだ。描かれる事件よりも、背景となる震災を巡る様々なドラマの方がリアルで圧倒的だったからだろうが、そんなことわかっていて、この小説を書いた以上、そこに、もう少し心に沁みる「何か」が欲しかった気がする。

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