
青山美智子の新作短編集。彼女は毎回こんな感じの優しい短編連作をさらっと差し出してくれる。甘いけど、ホッとする。いいかな、こんな感じで、と思う。特別凄いことではなく、ただどこにでもある、だから見過ごしてしまうようなたわいないこと。でもとても大事なこと。そこに目を向けて愛でる。それだけでいい。そんな短いお話が並んでいる。
どこにでもありそうな小さな公園の遊具。古びたカバのアニマルライド。(そう言うんだ。知らなかった)落書きしてある。バカと書かれていた。5つの話は、高校生になって成績が下がった男の子の憂鬱から始まる。あまりにあっけなく、たわいない。だけど本人にとっては深刻。カバヒコは何もしない。だけど、彼はカバヒコに救われる。
5つの短編はたわいない出来事で人生を終えるくらいの勢いで失速する人たちを取り上げる。他人からするとそれくらいのことで、と思われるだろうけど、本人はそうじゃない。最初の高校生は成績が下がってショックを受けた。高校に入って進学校でみんな優秀な子たちが集まっているから中学時代みたいにはいかないことはわかりきっているはずなのに。公園でクラスメイトの女の子と出会って、カバヒコに導かれて復活する。次はママ友に馴染めないお母さん、ストレスから仕事を休職する女性、校内駅伝に出たくない小学生。最後は仕事に疲れた50代の男性。たまたま同じマンションで暮らしている5人が(さまざまな人たちが)カバヒコ伝説を信じ復活する物語だ。
この伝説を作ったクリーニング店の老婆はラストに登場する男性の母親である。物語は母ひとり子ひとりの親子の関係性の復活で幕を引く。描かれるのは実にたわいないこと。だけど、やはり、この優しさは好き。