
地下鉄サリン事件をモデルにした話。実行犯のひとりとして指名手配された女の17年の逃亡の日々を描く。
妻が「後1日で返さなくてはならないけど面白いから読めば、」と勧めてくれたから読み始める。お陰で今日はこの本だけで終わる。
400ページ超えの長編。最初の2章を読んで、少し休憩してから一気にラストまで読んだ。始まりは面白い。彼女が教団に入り5年が経ったある日、なんとなく巻き込まれてサリン(渋谷毒ガス事件となっているけど)を渋谷の地下鉄内にばら撒く行為に付き合う。彼女はただ連れて行かれただけで何も知らない。
実在した事件をモデルにしたけど、事件そのものを描くのではない。それはきっかけに過ぎない。逃亡犯となった彼女は彼女を捨てた父親のもとに行く。再婚して小学生の子どももいる父は仕方なく彼女を受け入れてくれる。だが、父は昔の父ではなく、妻子に暴力を振るう暴君になっていた。この第二章からお話はサリン事件から離れていく。なんだか不思議な小説だ。何を描こうとしているのかがよくわからない。
そこには彼女の逃亡者としての日々が描かれる。5人の死者が出た大事件の犯行グループの一員であるけど、彼女は教団のことは何も知らない。ただ家から逃げてそこで何も考えずぬくぬく5年を過ごしただけ。18歳から23歳まで。そしていきなり放り出された。しかも犯罪者として。
自分を捨てて生きる日々の中で彼女は逃げるのではなく、生きる。自分じゃない自分と向き合う。すべてを失ったのではなく、最初から何もなかったことを知る。母親からの期待が彼女を押し潰したのか。だけど、それも自分の弱さが原因である。
父の新しい家族として生まれた子供(彼女の腹違いの妹)を守ることで自分のもう一つの人生を見守る。同時に今ある人生を生きる。彼女は何から逃げるのか。何をしようとしたのか。ヒロインという謎のタイトルが示すものを考えながら彼女と旅する5時間。(だいたい5時間くらいで読めた)これはなんだか不思議な体験だった。