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映画・演劇のレビュー

魚クラブ『一家団欒』

2016-07-18 19:42:37 | 演劇

 

1987年の初演から30年。本当に久しぶりにこの作品を見る。大竹野正典の初期の代表作である。1昨年、「劇集成Ⅲ」が出た時、初めて読んだ。(というか、解説を書くため、ゲラで読んだのだが)やはり、おもしろかった。実は、初演時見た感動はもしかしたら自分がまだ若い頃だったからのもので、買いかぶりでしかなかったのではないか、と少し不安だったのだけど、戯曲を読んでみて大丈夫だとわかり安心した。

 

そして、今回の魚クラブによる公演である。今、この作品をやる意味はあるのか、とは思わない。これは普遍的な問題を扱う作品だから、時代を経ても古びない。しかも、初演時のキャストであり、初期の頃からずっと犬の事ム所に関わってきた昇竜之助の演出である。昇さんは昨年から3年連続で大竹野作品連続上演に取り組んでいる。今回がその第2作目にあたる。しかも、今回は大竹野がスペースゼロと並んで、ホームグラウンドとして使用してきたウイングフィールドでの上演だ。いろんな意味で意気が上がる。

 

『劇集成』の解説で、僕はこの作品を「『夜が摑む』につながる傑作」と書いた。「幻の一作」とも。しかも、その解説で「この作品が傑作である理由を述べる」みたいなことを書きながら、書かずに原稿を終えている。(相変わらず、いいかげんだなぁ)

 

今、そこをぶり返すのも、悪くないけど、でも、今は、この魚クラブによって復活した『一家団欒』という作品のことを書きたい。

 

実は、かなり微妙なのだ。つまらないわけではない。それどころか、昔ながらのアングラ臭がプンプンするこの異形の作品に魅了された、と書いてもいい。昇さんは80年代のテイストを今に蘇えらせた。そこに、ちゃんと自分のテイストを盛り込み、大竹野作品とは違う新しい『一家団欒』を作り上げることに成功している。

 

5人のドラえもん(台本ではドラエモン)ガールズには驚く。昇さんが自らセンターのドラエモンを演じた。彼女の見せる狂気はオリジナルの凶暴さではない。もっと、冷たい。リアル「ドラえもん」ではなく、記号としてのドラえもんである。ノビタにとって、ドラえもんは夢の実現ではない。疫病神ですらない。自分を失ったノビタはドラえもんに操られた、だだの人形のように登場する。そこには彼の意志はない。パパとママはドラえもんさえいなければ、ノビタは昔のノビタに戻るという幻想を抱いている。しかし、現実はそんな簡単なものではない。

 

壊れてしまう野比一家の背後に本来の主人公である金属バットによって両親を撲殺した少年の家族が描かれる。この芝居はふたつの家族のドラマを見せながら、壊れゆく核家族の姿を描いた。下敷きになった事件や、参考とした作品をここであげても意味がない。これが書かれた80年代ですら、それらの出来事や作品は過去のものでしかない。

 

懐かしいテイストの芝居という懐古的な作品としてこれを受け止める人はいないだろう。大声で叫び、暴れる。こういうタイプの芝居は今はほとんどない。先にも書いたアングラテイストというのが、今の観客にはどう受け止められるのかも気になるけど、今、この作品が描く家族をどう捉えるか、そちらのほうがより気になるところだ。親と子の関係を戦うという図式で捉えることはない。今、家族はもっと、優しいし、冷たい。この芝居が描いた世界は、自分たちの問題としては感じられないのではないか、という危惧が僕にはある。では、そういうこの作品の古さが作品自体の弱さになるか、と言われれば否と答えるしかない。ここにある不安はやはり普遍的なものだと、思うからだ。

 

昇竜之助は、オリジナルのテイストを引き継いだまま、今に時代にこの普遍をぶつけてくる。実に力強い作品になった。しかし、それが、感動には至らない。なぜだろう。

 


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1 コメント

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本当に有難うございましたm(__)m (中村ゆり)
2016-07-30 08:56:09
広瀬先生
暑い中 ご観劇くださいまして誠にありがとうございましたm(__)m
今頃になってしまい申し訳ありません
素敵な感想に感謝いたしております
私も大竹野さんの脚本は本当に間違いないって思います
去年のKのトランクは、ただただ必死だった様な気がしていますが
今回、読めば読む程 演れば演る程に深くなって行く作品に 自分の表現力の限界も感じつつ稽古してました
広瀬先生のブログを拝見しながら「初演は超えられなかったんだなぁ〜」
とは思いつつ、それも仕方ないなぁ〜とも思いつつ…「悪くはなかった」んだとホッとしています
本当に有難うございましたm(__)m
来年は再演が2回もされてる作品ですし…本当に頑張らなければとも思っています
また、お力添え宜しくお願い致しますm(__)m
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