
コンビニ店で万引き犯を追いかけて誤って死なせて、しまった。そこから始まる。(映画の『空白』と同じ設定だ)これはキツい。読んでいて暗い気分になる。だけどこんなもんかな、とも思う。SNSでの中傷、炎上ですべてを失う50男。彼の話から始まる短編連作スタイルの長編だが、明らかに最初から仕掛けられてある。やがてそれは真人という青年のお話へとシフトしていく。彼は各短編の終わりに登場してやがてこのお話に関わっていく。
2章の主人公のミチルはメンズエステで働いている。エステといいながらも本番もありのデリヘルまがいだ。なぜ彼女がそこで働くことになったか。コロナ禍のシーセッション(女性不況)が原因か。
3章は再び柳田の話に戻ってきて、彼の娘の失踪を追う話になる。彼女がホストに嵌り、体を売っていることが明らかになり、同時にミチル、真人との関係性も明らかになっていき、お話は一気に結末に突入する。
いささか拍子抜けするラストだが、これはエンタメではないから、このそっけなさでかまわない。描かれることの重さ。プロローグのMの謎がさらりと解けたとき、これは万引き(これも犯罪)から始まったお話だったことを改めて思う。ふたりのMのこの先、柳田も含めて、正義って何か、無意識の犯罪であろうとも、それがすべてを失う、失わせる可能性があることを心に銘じて置くべきだと改めて思う。児童養護施設に入っていたふたりのM。ひとりぼっちになったこと。さりげないラストが救いになる。