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バリー・レヴィンソン監督の『ダイナー』が大好きだから、このタイトルで作られるのは少しむかつく。まぁ、仕方ないことだけど。もちろん、リメイクではなくこれは全く別の映画だ。
この世界の中で、居場所をなくした孤独なひとりの少女が、この迷宮に迷い込む。恐怖のメフィストであるこの食堂のオーナーのもと、ウェイトレスとして働くことになる。これは現実世界のお話ではなく、象徴的空間での地獄巡り。殺し屋たちのための秘密のダイナーなんていうあり得ない設定だけで1本の映画を仕立てるって凄い。脚本は後藤ひろひと。極彩色の舞台美術が蜷川実花監督らしい。
ここに自分の居場所を与えられた。それが死と背中合わせの地獄のような場所であろうとも、自分が必要とされているということが、彼女を生き生きさせる。やがてしたたかにここに確かな居場所を確保する。ギリギリの毎日の中で、彼女は生きがいのようなものを見いだすことになる。
とてもわかりやすいワンシチュエーションのドラマだ。舞台の人である後藤ひろひとによる台本はやはり演劇的で、このドラマを映画的な広がりで見せるのではなく、どんどん煮詰めていく。そこで、主人公のふたりと、彼らのもとに訪れるお客(殺し屋たち)とのちいさな諍いが短編連作のスタイルで描かれる。ずっと怯えながら身を縮めておどおどしながら日々を過ごしてきた少女がやがてここで大胆になり、自信を持ち、生きていく勇気を身につける。まぁ、これはそんな寓話だ。だけど、それがなんだか心地よい。ラストのメキシコのシーンも開放的な空気がそこまでの閉鎖的で抑圧的な空間からの飛翔を表現していていい。大場かなこ(大馬鹿な子)という名前も笑わせる。