
吉祥寺バウスシアター(井の頭会館、ムサシノ映画劇場)の90年に及ぶ日々を描く。だけど、これは映画としてはあまりに酷い。低予算で作ったから、というだけでなく、これは劇映画ではない。ならばせめてドキュメンタリー映画として作ったらよかったのにと悔やまれる。中途半端な作りと思い入れが映画を歪な作品にした。
映画は再現ドラマの域にも達していない。錚々たるメンバーを集めてこんな小芝居しかさせてもらえないのでは役者たちが可哀想だ。書き割りの表だけの劇場セット前で演じられるドラマがあまりにショボい。啞然とした。
無意味に長いシーンが多々あるけど、何もない長回しにイライラする。冒頭から頻繁にあるが、何か意図があるのか。わからない。まるで何も伝わらない。
1927年。青森から東京に出てきた兄と弟。ふたりは偶然知り合った胡散臭い男に導かれて吉祥寺の映画館で働くことになる。戦時中の困難、戦後からの映画黄金期も、主人公の染谷将太の死も、唐突に描かれて、えっ?って感じ。妻役、夏帆の死はしっかり見せるけど。
どうしてもこのスタイルに乗り切れないままラストまで違和感しかない。『ニューシネマパラダイス』のような(甘いけど)映画への愛なんてまるで伝わらない。ある家族の物語としても納得いかない。見ていてイライラするばかりの映画だった。終盤はさっさと終わってくれ、と思うくらいにつまらない。
これをどうしても作りたかったらしい晩年の青山真治監督の遺志を引き継いだ甫木元空監督の試みは空回りする。