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映画・演劇のレビュー

東野圭吾『祈りの幕が下りる時』

2013-12-29 20:26:21 | その他
『新参者』や『麒麟の翼』の加賀恭一郎シリーズの最新作だ。加賀の母親の秘密が描かれる。相変わらず東野圭吾は読ませる。400ページほどの長編小説なのだが、あっという間だ。どんどん先を読みたくなる。ストーリーテリングの見事さは、言うまでもない。

だが、読み終えて、あまり感動はない。予定調和だ。意外性とか、謎解きの妙も含めて、そうなる。ある種の幅のなかに収まるからだ。「シリーズ物」のルーティーンワーク。そんなスパイラルに陥っている。作者は、わかっていてこういうふうに作るのかもしれないけど、それでは物足りない。連続ドラマではなく独立した小説なのだから、もっとちゃんと自己完結して欲しい。

 ヒロインである女性演出家(小劇場出身で、メジャーな演出家になり脚光を浴びる、という設定だ。)が、芝居を通して何を実現しようとしたのか、とか、そういうことにまで踏み込んで欲しかった。「演劇」という表現方法をただの小道具として使うのではなく、芝居にできることを、大々的にこの作品の中心に据えてくれたなら、きっと凄いものになったのではないか、と芝居好きの僕は思う。作者にとって芝居はお話を展開していくための小道具に過ぎなかったのかもしれないが、もしどういうつもりなら、この作者はダメだ。

 もちろん東野圭吾はそんな浅はかな小説家ではない。だが、これでは取材不足は否めない。というか、演劇に対する愛が足りない。それは謎解きに関しても言える。なぜ殺さなくてはならなかったのか、わからない。理屈ではなく、もっと心に突き刺さるような想いが欲しい。加賀の母親の出奔と、それを受け止める加賀自身の想いも、あまりに淡泊で、書き込みが足りない。


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