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映画・演劇のレビュー

小嶋陽太郎『おとめの流儀。』

2016-07-06 18:59:26 | その他

 

中学のなぎなた部を舞台にした青春スポーツ小説。最近この手の小説はよくあるパターンで食傷気味なのだが、これがまた、他とは違っておもしろい。マイナースポーツを描くのだが、そこをことさら強調するわけではない。自然だ。マイナーであることの悲哀とか、ましてやスポ根でもなく、部活もの一番基本である友情、勝利、ライバル(少年ジャンプですかぁ)とかいうようなものでもなく、自然体でどこにでいるような中学生の日常を自然体でさわやかに描いていく。わざとらしさが一切なく、まさかコメディでもない。

 

 

先日見た今年の傑作スポーツ映画(たぶん)『ちはやふる』に匹敵する。(あれはこの手の王道を行く作品だったけど)変化球ものでは、少し古いけど、男子ソフトボール部を描く『ソフトボーイ』も、マイナースポーツクラブを取り上げていたけど、こういう目の付けどころがよさげなものって、実はその展開のさせ方が難しいのだ。お話の奇抜さは読みはじめたら(映画なら見はじめたら、だが)すぐに飽きる。要はその先をどう作るか、なのである。その難しいところをこの小説は見事切り抜けていく。感触としては剣道を取り上げた『武士道シックスティーン』に近いけど、もっとふつう。

 

廃部寸前のなぎなた部に入った5人の一年生。たったひとりの部員だった2年生の先輩(当然、キャプテン)の指導のもと、めざせ全国大会、ではなく、なんと同じ中学の剣道部な戦いを挑む、なんていうのがストーリーの基本ラインなのだ。このスケール小ささ。学校から出ないお話。

 

なぎなたなら全国といっても、男子ソフトボール部と同じで、エントリーすれば県大会もなく、そのまま全国大会に出場できる。だけど、お話はそういう方向にはいかない。

 

主人公のなぎなた少女と、その先輩(なぜかとても強い)とのお話を核にして6人の部員たちの群像劇にもなっているのは、よくあるパターン。クライマックスはもちろん男子剣道部対女子なぎなた部の戦い(この中学には武道をするなら男子は剣道で、女子はなぎなたに入るという暗黙のルールがある)になるのだが、(それが当然感動的なのだ)描こうとしたものは、そういう試合の興奮ではない。

 

ここには、もう少しで大人に近づく「中学生という時間」の微妙な想いが、かなりピンポイントで描かれるのだ。これはまだ20代の作家だから、書ける内容なのだろう。勝ち負けなんかとは違う世界が、勝負の世界を描きながらしっかりここに立ちあげられていく。見事だ。まだ、子供だけど、ただの子供じゃない。どこにでもいる普通の子供なのだ。そこがこの小説の意外性であり目の付けどころのよさなのだと思う。これは「特別を描く」のではなく、「誰もが特別なのだ」ということを描く。その視点にぶれがないから面白い。

 


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