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映画・演劇のレビュー

萩原浩『ワンダーランド急行』

2023-03-13 11:11:29 | その他

400ページ越えの大作だが、おもしろくてどんどん読み進めることができた。コロナ禍にある今が舞台だ。だが主人公はコロナのないパラレルワールドに紛れ込んでしまう。そこではちゃんと2020年に東京オリンピックがあり、(残念ながらそこでは日本選手団はあまりいい結果が残せず終わったけど。)いや、そんなことよりもまず2000年代になり牛が絶滅に危機にあるという出来事が描かれる。この微妙に現実の2020年代とは違う世界で、当然個人的な事情も違い戸惑うばかりの中、なんとかして元の世界に戻ろうと奮闘する姿が描かれる。先日の『エブエブ』と同じでこれも一種のマルチバースの世界だ。

先の展開が気になるからどんどん読み進めるのだが、250ページを過ぎたあたりから少しつまらなくなる。具体的にいうと、もう一つの世界から戻る話からだ。ふつうならここで終わるところなのに、この小説は元の世界に戻れず、また他の世界にたどり着いてしまう。そこでは他の女が妻で子供までいる。この2つ目の別世界の話がつまらない。ここからお話は急停止する。

この世界には数えきれないくらいの別世界があり、そこを行き来する話になるようだが、それならここから加速して『エブエブ』並みのマルチバースを見せて欲しいのだが、そうはならない。3つ目で終わりだし、そこでは戦争が起きていて大変なことになっている。そこにお話を持っていくと、最初のお話とは違うものになる。全体の構成が悪すぎた。

昨日放送が終了した『ブラッシュアップライフ』も最後のエピソードで減速してしまったがこれも同じパターンだろう。あれはふたりの親友を救うため飛行機事故を食い止めるという話になったところからつまらなくなった。大きな事件と絡ませるとそれまで丁寧に描いてきた小さな出来事の積み重ねが無駄にされる。大事なのはそこだったのに、そこがおざなりにされるのだ。本作も同じだ。戦争とかありえない。いや、それがありえる世界を描くのならそういう作り方をするべきで、唐突すぎた。

まずもとの世界に戻るのは前提であろう。そして異世界と元の世界を行き来する話でもない。ならば、戻ることで、もうひとつの自分と異世界の自分との隙間を埋めるというのが絶対条件になるはず。なのに、そこを避けてリセットする。3つ目の世界の話には何の意味もないし、最後の戦争の世界なんて別次元。せっかくの設定が無残に終わったのが悔しい。「コロナのなかった世界」(それはこれまで通りの世界のはずだった)をもっと丁寧に見せて欲しかった。


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