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映画・演劇のレビュー

額賀澪『願わくば海の底で』

2025-04-18 05:44:00 | その他
ある高校生の3年間における3つの小さな出来事を描く。さらにはその後、大学生になって最初の年を軽く挟んで彼がいない夏につながる。三つの季節、3人の視点に映る菅原晋也という青年の姿。彼は大事なものを忘れて失くす。好きな人からもらったものを。失くすというか、忘れて帰って失くす。大好きな先輩から記念にもらったもの。花束、ボールペン。

震災から5年後の夏。菅原先輩の思い出を辿る旅が描かれる第5話の中編がお話のメインになる。そこまでの3話は前哨戦である。彼のいない4話を挟んで。そこでは菅原晋也のいた3年間(と不在の時間)が描かれている。それは誰にでもある高校生活のスケッチだ。美術部に入った1年の春のこと。菅原は岩渕先輩に憧れた。2年の夏。プールでみんなとお弁当を食べられない女の子に叩かれ、プールに落ちる。3年の秋。受験生の菅原の才能に嫉妬した美術教師は菅原と美術室でおしゃべりをしたこと。そんななんでもない3年間を過ごして彼は東京芸大に合格し、東京に旅立つはずだった。2011年3月11日。お昼の堤防で釣りをしている老人をスケッチしていた。

この長編作品は5年後を描く5話が独立した中編小説として最初に書かれたらしい。それを膨らませてこの長編小説が書かれた。3.11に奪われたもの。たくさんの人たちの未来。菅原晋也はあの日防波堤のところにいた。2時46分。大地が揺れた。



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